最新記事

言語学

カタカナ語を使いたがる「よそが気になる」日本人(とドイツ人)

2021年2月5日(金)11時05分
平野卿子(ドイツ語翻訳家)

Photo illustration; Oatawa-iStock.

<「リスペクト」「ベネフィット」「リスク」......。対訳があるにもかかわらず外来語が氾濫しているのは、何らかのコンプレックスが潜んでいるから>

明治初頭(1870年代)、日本語は貧弱で不確実だからとの理由で初代文部大臣・森有礼は「英語公用語化論」を主張した。

終戦の翌年1946年には、いっそ世界で「一番美しい言語」であるフランス語に取り替えてはどうかと、「小説の神様」こと志賀直哉が言っている(ただし、志賀自身はフランス語ができなかった)。

森や志賀の主張はともかく、日本語に外来語(カタカナ語)が非常に多いのは確かである。わたしたちは母語を外国語と取り換えることが平気どころか、好んでそうしているのだ。

たとえば、「尊重」や「尊敬」というれっきとした日本語があるにもかかわらず、「リスペクト」という言葉を最近よく目にする。また、先日薬局で渡された説明書には、「薬には効果(ベネフィット)がありますが、副作用(リスク)もあります」と書かれていた。ここまできたかと思ってしまった。

ドイツ人も英語好き、「和製英語」的な言葉もある

しかし、外国語好きなのは日本人だけではない。実はドイツ人もこの点は非常によく似ている。

ヨーロッパでドイツほど英語由来の言葉が使われている国はない。これは「デングリッシュDenglisch(Deutsch+Englishドイツ語+英語の意)」と呼ばれており、「しゃれている」とか「知的に見える」などの理由で、文法上は必ずしも正しくなくとも使用されているのは、和製英語と同じだ(ちなみにドイツでも日本と同じく「ハッピーエンド(Happy End)」が使用されている。英語ではhappy ending)。 

外国語をやたらと取り入れたがる気持ちの底には、何らかのコンプレックスが潜んでいることが多い。「いいもの」や「本物」は自分のところ以外のどこか他にある――その思いがつきまとって離れない。つまり、「よそが気になる」のである。

フランス語好きだったフリードリヒ大王

思えば、わが国は朝鮮半島、中国に始まり、明治以降はヨーロッパ、そして戦後はアメリカと、外国を規範として崇めてきた。

一方、数世紀にわたって数多くの小国に分裂し、文化の中心となる首都のなかったドイツも諸外国に後れを取っているという自覚があり、文化後進国としての焦りやコンプレックスがあったことは間違いない。なかでもパリで華麗な宮廷文化が花開いたフランスに憧れる気持ちが強かった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=大幅上昇、ナスダック約4%高 中東の

ワールド

EU、22年のエネ危機対策の復活検討 イラン戦争受

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、「有事の買い」一服

ワールド

米国人女性ジャーナリスト誘拐、バグダッド 捜索続く
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 5
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 6
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 7
    韓国・週4.5日労働制が問いかけるもの ──「月曜病」解…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 10
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中