最新記事

映画

ゴールデングローブ賞は時代遅れの差別主義? 英語5割未満で作品賞から排除

2021年1月12日(火)20時40分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネイター)

ブラッド・ピットの映画会社が制作しても「外国映画」?

そもそも『ミナリ』は、ブラット・ピットの映画会社として有名な「プランB」が制作を務めている。そして配給会社は、エッジの効いた素晴らしい作品を次々と生み出し、会社自体のファンも多い「A24」だ。どちらもアメリカの会社である。また、監督であるリー・アイザック・チョンも、主人公のスティーヴン・ユァンも、韓国系のアメリカ人だ。

映画『フェアウェル』で同じような門前払いという苦い経験をしたルル・ワン監督は、今回『ミナリ』が外国語映画賞にノミネートされたことを受けて、自身のツイッターで「今年、この作品以上にアメリカ的な映画は無かった」と投稿。「我われは、アメリカ人は英語のみ使うという古臭い規則を変えるべきだ」と抗議した。

続いてデビット・リンチ監督も自身のツイッターにて「『ミナリ』は私が今年見た中で最高の物語だった。それが例えどの言語だったとしても。」とコメントしている。

タランティーノの映画はOKだった

また、ドラマ『glee/グリー』のマイク・チャン役で有名な香港系アメリカ人俳優ハリー・シャム・ジュニアは、クエンティン・タランティーノ監督の戦争映画『イングロリアス・バスターズ』は70%近くが外国語だったにもかかわらず、作品賞にノミネートされたことを例に異議を唱えている。

同じく、雑誌VANITY FAIRの編集者であり、映画/ドラマの編集者であるフランクリン・レオナルドも「映画『イングロリアス・バスターズ』の例を忘れてはいけない」と、ゴールデングローブを批判した。

今回の例は「映画の国籍とは一体何なのだろう」という問題を改めて考えさせられる騒動だ。この『ミナリ』は、正確に分類するならば、制作も監督も主演もアメリカ人なのだから、ある意味ハリウッドが手掛けた「韓国語の飛び交うアメリカ」の映画というカテゴリーが正しい。

しかし、アメリカ人の観客から見ると舞台はアメリカとはいえ、韓国語のセリフ部分は字幕が付いているので、韓国映画に見えるだろう。映画好きでない限り、わざわざ監督や主演俳優の国籍まで調べたりしないのだから。

アカデミー賞は多様化目指す

今後、このような騒動はますます増えていくと思われる。今や数カ国共同の合作映画など珍しくない。有能な監督をはじめ映画スタッフは自国だけでなく、世界を股にかけて活躍している。俳優たちも同じく、実力が認められればどの国でも起用される時代だ。こうなると、もう国でカテゴリーすること自体滑稽な気がしてくる。

アカデミー賞は2024年から多様性を重視したスタッフ構成、キャスト採用ではない映画には、「最優秀作品賞」を取る資格を与えないとしている。この規定が良いか悪いかは別として、今後ますます多様な人種と国籍の人々が、映画作品のために一つのチームとなる機会が増えていく。

ネットフリックスやアマゾン・プライムなどの動画配信サービスによる世界規模での新作発表も一般化し、映画は各国の作品に触れやすくなった。新しい才能同士が国を越えて映画制作する事例はすでに多くの国で行われている。これからは、映画に制作国や国籍をカテゴリー化し決めつけること自体、古い考えになっていくことだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中