最新記事

BOOKS

SNSの3つの特徴は「バカの先験的条件」なのかもしれない

2020年9月23日(水)11時05分
印南敦史(作家、書評家)

〈悪意の先験的条件〉は、大きく3つに分けられるそうだ。


ひとつ目は、著述家で映像作家のギー・ドゥボールが述べた〈スペクタクルの社会〉だ。ここではすべての経験が可視化される。つまり、人間の生活がスペクタクル化され、うわべだけになる。状況主義者(シチュアシオニスト)であるドゥボールは、これを次のように定義した。
「スペクタクルとは、イメージの集まりではなく、イメージによって媒介される社会的な人間関係のことである」(180ページより)

この定義は、そのままフェイスブックに転用できるという。フェイスブックでは、写真(イメージ)こそがユーザーの人格となり、それが「友だち」との関係性を築くということだ。

すなわち"フェイスブック社会"では、イメージこそがあらゆる媒介の中心にあるということであり、したがってツイッターの場合でも似たようなことが言える。


 ふたつ目の特徴は、何でも手当たり次第に他人を裁こうとする傾向だ。一九八〇年、ミシェル・フーコーはこのように述べている。
「なぜ人間はこんなにも他人を裁くのが好きなのか。おそらく、人類に与えられたもっとも簡単にできることのひとつだからだろう」(181ページより)

近年は動画投稿サイトやネットコミュニティサービスが多様化したため、個人がコメントを書き込める場が増えた。しかもユーザーはハンドルネームによって身分を隠せるため、リスクを負うことなく過激な発言ができる。

その結果、「『裁き愛」にますます拍車がかかった」とジョスト氏は表現しているが、いわば「炎上」の土壌が明確に出来上がっているわけである。

性別や年齢に関係なく、我々はたいていバカだから

個人主義や自己中心主義は、決して目新しいものではない。しかし、「世界は自分中心に回っている」と思わせる(錯覚させる)効果のあるインターネットが、それをさらに肥大化させたことは否定のしようもないだろう。

例えばフェイスブックの「ライブ動画配信」は、スマートフォンで撮影した自分の周囲の世界を他の人たちに見てもらうための機能だ。早い話が誰でもニュースメディアになれるわけで、それこそが"肥大化した自己中心主義の新たな症状のひとつ"だということである。

ただし、それが開かれた機能である以上、他の人も同じことをしているということにもなる。だから各人の中には必然的に「誰よりも有名になりたい」という欲求が芽生えるのだ。すなわち、そんな「自らの存在意義のために有名になりたいという欲求」こそが、SNSの3つ目の特徴であるという。

【関連記事】「売春島」三重県にあった日本最後の「桃源郷」はいま......

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 7
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中