最新記事

BOOKS

SNSの3つの特徴は「バカの先験的条件」なのかもしれない

2020年9月23日(水)11時05分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<生きている以上、バカの存在を避けて通ることはできない......という理由から生まれた『「バカ」の研究』。各界の論客が傾向や対策法を研究した本だが、例えば「SNSにおけるバカ」はどんな特徴を持つのか>

『「バカ」の研究』(ジャン=フランソワ・マルミオン 編、田中裕子 訳、亜紀書房)とは、ずいぶん攻撃的なタイトルである。そもそも、なぜバカを研究する必要があるのか? その意図について、自称「あなたの忠実なバカ」である編者は次のように述べている。


 わたしたちはみな、毎日ほぼ例外なく、バカなことを見たり、読んだり、聞いたりしている。それと同時に、自分もバカなことをしたり、思ったり、考えたり、言ったりしている。わたしたちは誰もがいつでもバカになりうる。(「はじめに:警告」より)

人生のどこかでバカになってしまうことは、多かれ少なかれ誰にでもあるわけである。確かにそのとおりだろう。しかし、それだけなら大したことにはならないはずだ。バカなことをしてしまったり、言ってしまったとしても、「バカだった......」と自覚し、反省できれば、それはそれで意義のあることなのだから。

人間である以上、多少の間違いは犯すのだから、やってしまったことを認めさえすればいいだけの話だ。

ただし、それでも問題は残されているという。私たちが誰かにとってのバカになった場合、それに気づける人は少ないということだ。また、多くの"よくいるありきたりのささいなバカ"の中には、ハイレベルでトップクラスの大バカ野郎も紛れ込んでいるものだと編者は指摘する。


たいていの職場や親族にいるこうした大バカ野郎の言動は、そのままスルーできるほどささいなものではない。その常軌を逸する愚かな言動、理不尽で意味不明な傲慢さに、わたしたちは途方に暮れ、嘆き、苦しむ。大バカ野郎は、自分の主張を決して曲げず、他人の意見に聞く耳を持たず、こちらの感情を無視し、尊厳を傷つける。そのせいでわたしたちはすっかり意気消沈し、この世に正義などないのではないかという気持ちにさせられる。(「はじめに:警告」より)

つまり私たちは生きている以上、バカの存在を避けて通ることができないということなのかもしれない。そこで本書ではさまざまな領域から論客を招き、世の中にあふれるバカの傾向や、その対策法を明らかにしているわけである。

「なぜこんなにも他人を裁くのが好きなのか」フーコー

今回はその中から、パリ第3(新ソルボンヌ)大学名誉教授、メディア映像音響研究センター創設者・名誉会長のフランソワ・ジョスト氏による「SNSにおけるバカ」に焦点を当ててみたい。

ジョスト氏は著者『デジタル時代の行動における悪意』[未邦訳]の中で、SNSをドイツ人哲学者のカントにならって〈悪意の先験的条件〉と呼んでいる。「ネット上で悪意を表明するのを可能にする条件」こそがSNSだということである。

【関連記事】 1件40円、すべて「自己責任」のメーター検針員をクビになった60歳男性

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中