『失敗の本質』『武士道』『道しるべ』...中満泉・国連事務次長の「人生を変えた5冊」
毎日新聞社/AFLO
<日本軍の組織論、新渡戸稲造、天文学者の自然科学書、そしてボスニア紛争での経験とシンクロした「アンネ」と、国連事務総長の孤独。国連日本人トップが多彩な5冊を紹介する。本誌「人生を変えた55冊」特集より>
私がいま関わる紛争の解決などの仕事に影響を及ぼしたのは子供の頃に読んだ『アンネの日記』。戦争の中で生きる個人の重たい描写もあれば、普通の女の子らしい人生を生きていたという面もあったことが印象に残っている。体験ではなく知識で戦争を学ぶと、一人一人の顔、生きざまが見えてこないが、それを理解できるような本だと思う。
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1990年代前半に国連の仕事でボスニアにいたとき、アンネの一家がオランダでかくまわれたように、イスラム教徒を実際に自分の家にかくまっていたクロアチア人に出会った。戦争の最中にも命を懸けて正しいことをする人はいるということを実感し、だからこそこの本は読み継がれているのだと思った。
自分がこれまで勉強してきた分野でいまだに本棚から引っ張り出すのは『失敗の本質――日本軍の組織論的研究』。なぜ日本軍が第2次大戦であれだけの失敗をしたかを学際的に分析した本で、大学院生時代に有事の際の意思決定に関して勉強していたときに父親に薦められて読んだ。新型コロナウイルスへの対応などで今の日本についても当たっているなと思うことがある。どんなことに注意して組織を率いていけばよいかや、きちんとした戦略目的がいかに重要かなどについて、「こういうふうにしてはいけない」という反面教師として時々思い出している。
『失敗の本質──日本軍の組織論的研究』
戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、
村井友秀、野中郁次郎[著]
中央公論新社
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いろいろなことを考え、興味を持つための知的刺激を与えてくれたのは天文学者である松井孝典の『宇宙誌』。アリストテレスからアインシュタイン、ホーキングに至るまでどうやって人間が科学的真理を追究してきたかを、私のような純粋に文系の人間にも分かるように書かれている。これを読んで初めて自然科学に興味を持つことができた。
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印象に残っているのは、人類の歴史上、ずっと科学者=哲学者だったと紹介していること。科学の追究はある意味哲学的、もっと言うとやや宗教的、精神的な営みでさえあることがよく分かる。読んで以来、視野が広がり、サイエンス系の論文も興味を持って読めるようになった。
最後の2冊は現在進行形で影響を受け続けており、恐らく今後も何回も読み返す本。一冊は新渡戸稲造の『武士道』。海外に日本の倫理的基盤を紹介するため非常に分かりやすい英語で書かれている。うがち過ぎかもしれないが、彼は西洋と日本のギャップに苦しんだ人だと思う。
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