最新記事

人生を変えた55冊

太田光を変えた5冊──藤村、太宰からヴォネガットまで「笑い」の原点に哲学あり

2020年8月5日(水)16時30分
小暮聡子(本誌記者)

HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

<友達が1人もできなかった高校時代、いつもポケットに文庫本を入れていた。悶々とした日々から現在の笑いが生まれるまで、爆笑問題の太田光を変えた厳選5冊を聞く。特集「人生を変えた55冊」より>

7月下旬、東京・阿佐ヶ谷駅にほど近い、芸能プロダクション「タイタン」事務所。大の読書家として知られ、これまでメディアでも多くの愛読書について語ってきたお笑いコンビ「爆笑問題」の太田光に、事務所の一室で「自分を変えた5冊」について本誌・小暮聡子が聞いた。
2020081118issue_cover200.jpg

◇ ◇ ◇

まず、最近読んだ本は?

「物理学の本。あっちじゃないほうの、NHKをぶっ壊さないほうのタチバナタカシね。僕は立花隆さんの本が好きで。彼は脳死の本とか熱力学の法則の本とか、たくさん出していて、そういうところから入って、本の中に出てきた専門書を読んだりもする」

物理学の本の何が面白かったのかと聞くと、エントロピーや核物質について熱く語り出す。太田は何か知りたいことがあるなど目的を持って読書するというより、興味の赴くまま、好奇心を熱量にどんどん読み進めていくそうだ。

そんな太田が、自分の人生を変えた本として1冊目に挙げたのは、小学校2、3年生のときに読んだ『トム・ソーヤーの冒険』(マーク・トウェイン)だ。


『トム・ソーヤーの冒険』
 マーク・トウェイン[著]
 邦訳/岩波書店ほか

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

「うちの母親はもともと演劇をやっていた人で、地域の公民館などに劇団『ひまわり』などを呼んで子供たちにお芝居を見せる親子劇場という活動をしていた。そこで『トム・ソーヤーの冒険』のお芝居を見て、楽しいなぁって思って、子供向けの名作全集みたいなものを何度も読むようになった。当時はみんな、ウルトラマンごっことか仮面ライダーごっことかをやりたがるんだけど、俺は友達にトム・ソーヤーごっこやろうよって言って、勝手に役を割り振っていたりして......」

読書に本格的にのめりこんでいったのは、中学3年生くらいのとき。当時、フォークグループ「アリス」の大ファンだったという太田は、谷村新司の深夜放送のラジオ『セイ!ヤング』を熱心に聴いていた。谷村が自分の尊敬する作家は亀井勝一郎だとよく言っていたことから、亀井勝一郎の『青春について』(旺文社、絶版)を手に取ったという。

「それが、すごい衝撃的で。評論とか哲学みたいな内容で、中学生の自分にはよく分からない部分もあるんだけど、いわゆる『偽善』という概念について書かれていた。例えば、友人がカネを貸してくれと言ったときにどういう心持ちで貸すべきか。お金を貸すことで友人との関係性は崩れてしまうので、自分が上に立ってしまうことを意識するならば、貸す側が『申し訳ない』という気持ちで貸すべきだと。それまで自分が考えてきたこととは全く違う考えだったから、衝撃を受けた」

それまでは募金活動などを何の疑いもなく素晴らしいことだと思っていたのに、そういう自分はもしかしたら嘘なんじゃないか、偽善者なんじゃないかと、その本を読んで気付いてしまった。自分は、ただ単に悦に入っているだけなのではないか......。太田にとって、自分とは何かと、初めて考えさせられた経験であり、いわゆる「自我の目覚め」に火をつけたのが亀井勝一郎の本だった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米雇用コスト、第3四半期は前期比0.8%上昇 予想

ワールド

スターマー英首相、トランプ氏の批判に反論 「欧州は

ビジネス

カナダ中銀、金利据え置き 「経済は米関税にも耐性示

ワールド

ノーベル平和賞マチャド氏、授賞式間に合わず 「自由
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲う「最強クラス」サイクロン、被害の実態とは?
  • 4
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中