最新記事

建築

感染症はライフスタイルと共に都市と建築のデザインも変える

The Post-Pandemic Style

2020年5月22日(金)18時00分
バネッサ・チャン

同時にモダニズムのデザインは、道徳的・物質的・社会的な幸福を統合する1つの哲学を体現していた。ル・コルビュジエは次のように指摘した。「衛生と健康な身体は都市の設計に依存する。衛生と健康な身体がなければ、社会は衰退する」

現在のコロナ危機の下では、この言葉の真実が痛いほどよく分かる。早期の感染拡大防止措置が実施されなければ、人口過密都市は感染爆発の温床になりかねない。

感染症が新基準を生む

感染症はずっと以前から、建築と社会を変容させてきた。19世紀には、コレラの大流行を受けて「パリ大改造」が行われ、ロンドンでも下水道の整備が進んだ。

新型コロナのパンデミックも既に新しい設計理論を生み出している。アーキテクチュラル・ダイジェスト誌によると、多くのデザイナーや建築家は公共スペースの感染リスクを減らすため、自動化された非接触型技術の普及を考えている(例えば声で作動するエレベーター、ハンズフリーの照明スイッチなど)。

サナトリウムがモダニズム建築に大きな影響を与えたように、汚染された空気を除去する換気システムなど、21世紀の公衆衛生に欠かせない建築の要素が公共スペースに採用される可能性もある。モダニズム建築家が衛生のために装飾を拒否したように、現代のデザイナーは抗菌性の材料を利用する可能性が高い。

「社会的距離」戦略が都市デザインに与える影響について、建築家は人々の密集を緩和するため、建物の小型化やオープンスペースの拡大を志向するという見方がある。リモートワークの生産性次第では、従来型オフィスの衰退が早まるかもしれない。社会的距離は感染拡大防止の暫定的措置ではなく、新しいデザインの基準になる可能性がある。

物理的接触が禁止または制限されている今、私たちの幸福を支える社会インフラの重要性が浮き彫りになっている。都市の人口過密は感染症の蔓延を助長しかねないが、公園やカフェ、スポーツ施設、ライブ会場などは人間同士のかけがえのない交流の機会を提供してくれる。

持続可能な都市デザインは、人々が公共スペースを自分の家のように考えることを促し、ごみの散乱、汚染、人口過密といった感染症の拡大要因と闘うことを可能にするかもしれない。デザインは社会の絆を否定するのではなく、むしろ地球市民としての帰属意識を向上させる可能性がある。

©2020 The Slate Group

<本誌2020年5月26日号掲載>

【参考記事】21世紀に輝き続ける世界の偉大な現代建築8選
【参考記事】コロナ時代の不安は、私たちの世界観を変える

20200526issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月26日号(5月19日発売)は「コロナ特効薬を探せ」特集。世界で30万人の命を奪った新型コロナウイルス。この闘いを制する治療薬とワクチン開発の最前線をルポ。 PLUS レムデジビル、アビガン、カレトラ......コロナに効く既存薬は?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ11月米販売台数が4年ぶり低水準、低価格タイ

ビジネス

米国株式市場=ダウ・S&P最高値更新、オラクル株急

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、FRBと他中銀の温度差に注

ワールド

トランプ氏「一段の利下げ望む」、前日のFRB決定歓
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキャリアアップの道
  • 2
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 5
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 6
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 7
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 8
    ピットブルが乳児を襲う現場を警官が目撃...犠牲にな…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 10
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中