最新記事

建築

感染症はライフスタイルと共に都市と建築のデザインも変える

The Post-Pandemic Style

2020年5月22日(金)18時00分
バネッサ・チャン

maglifestyle200522_post_pandemic2.jpg

アールトの「パイミオのサナトリウム」(1933年) DE AGOSTINI PICTURE LIBRARY/GETTY IMAGES

そうした彼の美学を体現しているのが、代表作の1つ、サボア邸だ。病院のような白に塗られ、居住スペースは病原菌のいる地面から距離を取った高床構造になっている。

建築史に詳しいイギリスの美術史家ポール・オバリーは、建物の装飾にたまるほこりはモダニズム建築において「撲滅すべき衛生上の敵」だったと書いている。

木彫りの装飾や布張りのソファなどほこりがたまりやすいものは、ミニマルなデザインの調度品に取って代わられた。アールトらは曲げ木や合板、鉄パイプなどを用いたすっきりした形の軽い家具を制作。簡単に動かして掃除ができるおかげで、物陰に潜むほこりや虫は駆逐された。

20世紀に入る頃には、結核菌を含む飛沫が乾燥し、感染力を保ったままで家庭内のほこりに潜んでいることが知られるようになっていた。「暗がりでは30年、太陽の下では30秒」という有名なうたい文句を通し、ほこりの危険性とともに、病原菌と戦う日光の力への認識が広まった。

テラス、バルコニー、平屋根というモダニズム建築の共通要素は、光と空気、自然が持つ治癒効果への強い関心を体現している。

1920年にスペイン風邪で父を亡くしたカリフォルニアの建築家リチャード・ノイトラは、あらゆる居住空間で太陽光と新鮮な空気を取り入れることにこだわった。ロサンゼルスの「コロナアベニュー小学校」(1935年)では、ガラスの壁面で各教室と外庭をスムーズにつないでいる。

フィンランドの建築家アールトによる「パイミオのサナトリウム」(1933年)は、療養効果と建築美の共存が完璧に表現されたモダニズム建築の記念碑的作品だ。建物全体を医療器具と考えたアールトは、各階に設置した日光浴・大気浴用のバルコニーで屋内と屋外をつないだ。窓のある部屋からは外の森が一望でき、遊歩道が奥へと誘う。

テラス、平屋根、綿密に設計されたインテリアや家具といった建築的特徴は、モダニズムの代名詞である機能性と合理性の表現であり、治療のためのライフスタイルを追求する姿勢の表れでもある。

このミニマリズム的美意識の背後には、超越への強い欲求があった。オランダの建築家ヨハネス・ダウカーはこう述べている。「この省力化の精神は、使用する材料によって最適な建築を志向し、非物質化・精神化に向けて着実に進化していく」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中