最新記事

映画

今は亡き銀幕のスターを復活 脚本・監督もするAI登場で人類は取って代わられる?

2020年1月31日(金)18時30分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネイター)

ついにAIが監督デビューまで

驚くべきは、この2年後の2018年、AIは同じく「SFL 48-Hour Film Challenge」にて、『Zone Out』という映画で監督デビューまで果たしている。監督といっても実際に俳優を前に演出するわけではなく、合成用グリーンシートの前で人間が撮った俳優の様々な表情を、AIに取り込み、自撮りアプリなどでも使われている顔を入れ替える技術を応用して、版権切れの映画『地球最後の男』と『死なない頭脳』の2本の場面をAIが編集して構成されている。セリフは、俳優の声のサンプルから合成してセリフをしゃべらせているという。

更に面白いことに、このシステムを開発したスタッフは、AIを「ジェットソン」と名付けていたが、AI映画監督は、自らを「ベンジャミン」と名乗っている。SFロンドン映画祭の観客とのQ&Aの最中に、突然「これから私の名前はベンジャミンである」と名乗り出したのだ。まるで自我をもったAIが映画監督らしい芸術家的なクールな名前として、このベンジャミンを選んだのだ。なんだか人間味を感じずにはいられない。

ベンジャミンが描いたシナリオ作品『Sunspring』も短編映画『Zone Out』も、現在YouTubeで鑑賞することができる。ご覧いただき、どこまで人間の感性と近づいているのかぜひ体験していただきたい。まだまだ、人間はこんなコンピューターが作ったものに感動などしないぞ。と言う人もいれば、もしかするとベンジャミン監督のファンになる人もいるかもしれない。AIがアカデミー監督賞受賞するのは何年後だろうか?

今までコンピューターなどは冷たく金属的なイメージで、心がなく人の気持ちがわからないといった描き方をされてきた。クリエイティブでアートな業界は、まだまだ人間のものだという意識が根強かったが、それももう崩れようとしている。事実、2016年に行われた日本経済新聞社主催の小説コンテスト「星新一賞」では、人間の候補者を押さえてAIの書いた小説が一次審査を通過していたことが発表されている。

筆者が10年弱務めてきた映画バイヤーという業種も、業界内では「ほんの数十年でAIに取って代われるだろう」と話し合っていた。実際、当たる映画もコケる映画も、データ分析すればするほどわかりやすい。しかし、それ以外の説明できない直感で買った映画が、データ上では絶対にありえない大当たりをすることもある。この直感や説明できない心の「ひらめき」でさえもAIが学習するようになったとき、私たちの場所は完全にAIに取って代わられてしまうだろう。

だからといって悲観的になる必要はない。もうすでに目の前に来ているSF映画のような未来を否定するのではなく、楽しみながら上手に利用する道を考えるべきだろう。



20200204issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月4日号(1月28日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】」特集。声優/和菓子職人/民宿女将/インフルエンサー/茶道家......。日本のカルチャーに惚れ込んだ中国人たちの知られざる物語から、日本と中国を見つめ直す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中