今は亡き銀幕のスターを復活 脚本・監督もするAI登場で人類は取って代わられる?
ついにAIが監督デビューまで
驚くべきは、この2年後の2018年、AIは同じく「SFL 48-Hour Film Challenge」にて、『Zone Out』という映画で監督デビューまで果たしている。監督といっても実際に俳優を前に演出するわけではなく、合成用グリーンシートの前で人間が撮った俳優の様々な表情を、AIに取り込み、自撮りアプリなどでも使われている顔を入れ替える技術を応用して、版権切れの映画『地球最後の男』と『死なない頭脳』の2本の場面をAIが編集して構成されている。セリフは、俳優の声のサンプルから合成してセリフをしゃべらせているという。
更に面白いことに、このシステムを開発したスタッフは、AIを「ジェットソン」と名付けていたが、AI映画監督は、自らを「ベンジャミン」と名乗っている。SFロンドン映画祭の観客とのQ&Aの最中に、突然「これから私の名前はベンジャミンである」と名乗り出したのだ。まるで自我をもったAIが映画監督らしい芸術家的なクールな名前として、このベンジャミンを選んだのだ。なんだか人間味を感じずにはいられない。
ベンジャミンが描いたシナリオ作品『Sunspring』も短編映画『Zone Out』も、現在YouTubeで鑑賞することができる。ご覧いただき、どこまで人間の感性と近づいているのかぜひ体験していただきたい。まだまだ、人間はこんなコンピューターが作ったものに感動などしないぞ。と言う人もいれば、もしかするとベンジャミン監督のファンになる人もいるかもしれない。AIがアカデミー監督賞受賞するのは何年後だろうか?
今までコンピューターなどは冷たく金属的なイメージで、心がなく人の気持ちがわからないといった描き方をされてきた。クリエイティブでアートな業界は、まだまだ人間のものだという意識が根強かったが、それももう崩れようとしている。事実、2016年に行われた日本経済新聞社主催の小説コンテスト「星新一賞」では、人間の候補者を押さえてAIの書いた小説が一次審査を通過していたことが発表されている。
筆者が10年弱務めてきた映画バイヤーという業種も、業界内では「ほんの数十年でAIに取って代われるだろう」と話し合っていた。実際、当たる映画もコケる映画も、データ分析すればするほどわかりやすい。しかし、それ以外の説明できない直感で買った映画が、データ上では絶対にありえない大当たりをすることもある。この直感や説明できない心の「ひらめき」でさえもAIが学習するようになったとき、私たちの場所は完全にAIに取って代わられてしまうだろう。
だからといって悲観的になる必要はない。もうすでに目の前に来ているSF映画のような未来を否定するのではなく、楽しみながら上手に利用する道を考えるべきだろう。
2020年2月4日号(1月28日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】」特集。声優/和菓子職人/民宿女将/インフルエンサー/茶道家......。日本のカルチャーに惚れ込んだ中国人たちの知られざる物語から、日本と中国を見つめ直す。