映画『ライオン・キング』は超リアルだが「不気味の谷」を思わせる
A Dazzling Safari in the Uncanny Valley
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<豪華キャストでよみがえったディズニーの名作アニメ。映像は自然番組のような本物感だが、あまりの違和感に人はたじろぐ>
どうやら「不気味の谷」では地球よりも変化が速いらしい。ただし気候変動で大変な地球と違って、あちらでは環境に優しい変化が進み、動物たちも一段と元気になった様子だ。
「不気味の谷」とは、かつてロボット工学者の森政弘が提唱した言葉。人型ロボットがリアルさを増していくと、ある地点で突然、嫌悪感や不気味さが感じられるようになることを指す。
3DのフルCGアニメ『ポーラー・エクスプレス』が公開されたのは15年前。当時はろう人形みたいなキャラクターにのけ反る観客もいたものだが、あれから技術は劇的に進化した。生身の役者の動きや表情を再現するパフォーマンス・キャプチャーやCGフル活用のストップモーションなど、アニメのデジタル技術は急速に「不気味の谷」を侵食し、気が付けば超リアルなサバンナが出現していた──。
ミュージカルにもなったディズニーアニメの傑作『ライオン・キング』(94年)の「超実写版」が完成した。確かにリアル。でも別な不気味さがある。
主人公のライオン王子シンバをはじめとする超リアルなキャラクター(ハイエナやイボイノシシ、ミーアキャットなど)を生み出した技術は、パフォーマンス・キャプチャーでもストップモーションでもないらしい。
ジョン・ファブロー監督は手の内を明かさないが、これは人間の動作を再現するでも生身の動物を撮影するでもなく、全てがデジタル空間でつくり上げられた映像だという。実際、音声なしで見たらアフリカの自然を撮ったドキュメンタリー映像かと思ってしまうだろう。
歌って踊るリアルな動物
ディズニーの定番だった擬人化された動物、つぶらな瞳に大きな頭のアニメキャラはもういない。演出のジュリー・テイモアはアニメらしさを完全に排除し、パペットを使ったミュージカル版とも一線を画した。
ファブロー監督がビジュアル面で目指したのは、遊び心を駆使して「ライオンらしさ」を表現することではない。本物のライオンが走り、狩りをし、眠る姿を近くで観察する疑似体験を観客に提供することだ。
しかし本物そっくりのライオンが「人間の声」で歌って踊って語りもするとなれば、それはけっこう「不気味」だろう。