JKビジネスを天国と呼ぶ「売春」女子高生たちの生の声
16~17歳の女の子の口から「お客さん」とか「路上で立ちんぼするしかない」などという言葉が出てくることのほうが「マジありえない」気もするが、これは現実の一端であるようだ。
別のページで著者は、12歳でグレて家出してから3年後、非合法の売春組織に流れ着いた少女について「立派な売春婦になっていた」と記している。言葉は直接的だが、それは至って正論でもある。逆から見れば、ここに出てくる少女たちには「裏オプ=売春」という感覚が欠如しているということである。
著者は取材した少女たち全員に、「裏オプなんかするのはやめなさいと助け船を出すNPOなんかの支援団体についてはどう思う?」と質問してきたのだそうだ。その結果、少女たちの主張は言葉のニュアンスこそ違えど、「ほっといてほしい」「いい迷惑」だと一貫していたのだという。理由は簡単。支援団体が動くことでJKビジネスが規制され、働き口を失ってきた過去が少女たちにはあるからだ。
彼女たちからすれば、自分たちに売春する場所を与えてくれる大人だけが正義であり、支援や問題解決を盾に近づいてくる大人は、摘発して場を荒らす警察と同じだということ。そのような視点は、自分のような取材者にも向けられていると著者は感じたそうだ。
印象的なのは、著者が「裏オプ」のことを、麻疹(はしか)のような感染症に似ていると表現していることだ。
予防接種を家庭環境における親との関係に置き換えるとわかりやすい。親の愛情を予防接種とすれば、愛情はないよりもあったほうが感染は低くなる。人混みに近づかないなどの予防法も、夜な夜な繁華街で遊ばせないという親の監視に置き換えられる。
だが、この予防法である家庭環境は、ふとしたことで綻ぶ。
一九歳のノゾミは寵愛を無関心と判断して親を見限り、裏オプに舵を切った。十七歳のミワは寵愛をジャニタレに求めた。周囲に感染者がいると、家庭環境に関わらず、貢ぐ相手を見つけて嘘をついてまで裏オプしてしまう。ひとたび感染すれば、熱が冷めるまで誰の意見を聞くこともない。大人に抱かれるなか、カネの魔力に溺れ、いつしか目的がカネを得ることにすり変わるという合併症を引き起こしていく。
そうして少女たちは麻疹のように裏オプを患ってきたのである。それは、時を経て大人になり、就職や性風俗業界への転身をするなど、いずれまた発症する可能性を秘めつつも治るものではある。だがこじらせた少女たちの行く末はどうなるのかと言えば、生涯この"病"と付き合っていくことになるわけだ。(252~253ページより)
そして著者は、いまや日本列島全体が"売春島"の様相を呈していると結論づけている。冒頭で触れた前著のタイトルが、こういうところで応用できてしまう現在の日本には恐ろしさ......というよりも気味の悪さを感じずにはいられない。
『裏オプ――JKビジネスを天国と呼ぶ"女子高生"12人の生告白』
高木瑞穂 著
大洋図書
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。新刊『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。
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