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婚約破棄、辞職、借金、自殺......知られざる加害者家族の苦悩

2018年3月23日(金)17時42分
印南敦史(作家、書評家)

また、これもあまりクローズアップされないことだが、事件後に加害者家族が背負う経済的負担(被害弁償、損害賠償など事件の処理に伴う出費や転居の費用、面会にかかる交通費など)も深刻な問題だ。


重大事件の家族のみを対象に、逮捕から判決確定までにかかった費用を調査したところ、平均金額は、約600万円だ。
 息子が強制わいせつ致傷罪で逮捕されたAさんの場合、3名の被害者に100万円ずつ示談金を支払い、私選弁護人の費用に約300万円を要した。
 夫が出張中に強姦致傷罪で逮捕されたBさんは、被害者に300万円を支払い、夫が逮捕された場所が遠方であったことから、面会のための旅費に、判決確定まで約50万円を要した。
 息子が振り込め詐欺事件の犯人のひとりとして逮捕されたCさんは、示談金として500万円を支払い、私選弁護人の費用に100万円を要した。
 未成年の息子が傷害致死罪で逮捕されたDさんは、遺族に1000万円の支払いをした。(42ページより)

A〜Dの中に資産家はおらず、いずれも自宅を売却したり、親族から集めたり、借金をするなどしてお金を捻出したのだそうだ。子供の教育費や老後の蓄えはあっという間に消えてしまい、当然ながらそうした出費は、残された子供の進路にも大きな影響を与える。

このような話題に対しては、ネット上に「犯罪者と同じ血が流れていることは事実」「加害者家族だからといって許されるわけではない」というような心ない意見を見かけることがある。

しかし、そういうことではないはずだ。なぜなら家族がある以上、私たちもまた、加害者家族にならないとは断言できないからだ。そのように、客観的な視点を持つことが必要であると思えてならない。


 社会的に追いつめられ、助けが必要な状況に立たされるのは、むしろ責任を否定できない立場にいる加害者家族である。支援のあり方として、被害者でなければ支援しない、つまり同情に値しなければ支援の必要はないという考えではなく、誰もが被害者・加害者になりうる現実から、「加害者側」という立場を真正面から引き受けたうえでの支援が必要ではないかと私は思った。(164ページより)

大切なのは、この部分だ。無責任な正義感によって見知らぬ相手を糾弾し、「いいこと」をしたような気分になるのは簡単だが、本質はそんなに薄っぺらいことではないはずだ。

確かに非現実的なことではあるので、実感は持ちにくいかもしれない。しかし、だからこそ私たちはこの問題について、もっと踏み込んで考えるべきなのではないだろうか。


『息子が人を殺しました――加害者家族の真実』
 阿部恭子 著
 幻冬舎新書

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダヴィンチ」「THE 21」などにも寄稿。新刊『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)をはじめ、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)など著作多数。

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