最新記事

BOOKS

定年後どう生きるか、最大のポイントは「黄金の15年」にあり

2017年10月23日(月)16時04分
印南敦史(作家、書評家)


定年後の60歳から74歳までは自分自身を縛るものが少なく、かつ裁量を持って動ける黄金の15年である。人生後半戦の最大のポイントだという意気込みで、自分ならではのものを見出したいものである。(134ページより)

これを読んで、「ああ、ポジティブな考え方だなぁ」と感心するだけでは意味がない。つまり60歳からの15年は、なんとしてでも有効に使わなければいけないのだ。それは、第7章のタイトルにもなっている「『死』から逆算してみる」という考え方にもつながっていく。


 逆算型の生き方は、老いや死を取り入れながら生をイキイキさせることにつながっている。定年退職者が語る「元気で働ける年齢を74歳までとするなら」「残りの人生が30年あるならば」は、いずれも死を意識しながらそこから逆算して自分の未来を考えている。たとえば「今日が自分の最期の日であれば」と想像して、もしやらなければ後悔することがあればすぐに手をつけておこうということになるだろう。(187~188ページより)


数十年間生きて、そして今死んでいかなければならないという厳粛さは、日々の自分勝手な思い込みなどから解き放たれて、本当に自分にとって大事なものに気づく機会になる。
 この絶対的な死との関連において、定年後の自分の立ち位置を確定させるならば、そのアイデンティティはかなり揺るぎないものになる。(中略)人生が80年になり、多くの人が、いかに生きるか、いかに死ぬかについて考えざるを得なくなった。これは大変なことである反面、自分の進む道を自分で選択できるようになったと思えば、このチャンスを活かしたいものだ。(188~189ページより)

人生には、自分で自分のことを簡単にはコントロールできない時期と、自ら裁量を発揮できる時期があると著者は言う。確かにそうかもしれない。事実、私が自分自身のことに当てはめてみてもそう感じる。今の自分がどれだけ自分をコントロールできているのかは分からないが、それでも似たような実感は持つことができる。

そして著者は、こうも言うのだ。そういう意味において、定年までの会社生活はリハーサルであって、定年後からが本番なのだと。「話を聞いた人たちの顔を思い浮かべるとそう思うのである」という一文には、柔らかな、それでいて力強い説得力がある。


『定年後――50歳からの生き方、終わり方』
 楠木 新 著
 中公新書

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダヴィンチ」「THE 21」などにも寄稿。新刊『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)をはじめ、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)など著作多数。



【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

被造物は「悲鳴」、ローマ教皇がCOP30で温暖化対

ワールド

サマーズ氏、公的活動から退くと表明 「エプスタイン

ワールド

米シャーロットの移民摘発、2日間で130人以上拘束

ビジネス

高市政権の経済対策「柱だて」追加へ、新たに予備費計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中