ピケティ理論はやがて成立しなくなる
働いた対価として得られる給料は、まさにフローの典型である。フローという形で大きな富を得られないのは、いつの時代も同じことのようである。
ピケティ氏はマクロ経済のデータから資産の収益率を計算しているが、筆者も独自に、過去100年間に日本における株式や債券の利回りや値上がり率などから簡易的に資産の収益率を計算してみた。
得られた結論はピケティと同じで、いつの時代においても、所得の伸びを資産の収益率が上回っており、唯一の例外はバブル崩壊後の失われた20年だけであった。デフレ下の日本は、幸か不幸かそれほど格差が拡大しなかった時代だったということがわかる(現在、日本で進んでいる格差拡大は、貧困率の上昇に代表されるように、どちらかというと下方向への拡大である)。だが今後、資産価格がさらに上昇すれば、資産を持つ人とそうでない人の格差は一気に広がっていくはずだ。
資産を持つ人が株式や債券を通じて投資した資金は、金融機関などを通じて、最終的には、事業資金として活用される。先ほど、従来型社会ではビジネスを立ち上げるために多額の資金が必要であると述べた。それは大規模な工場や鉄道といったインフラだけにとどまるものではなく、ラーメン店や焼き肉店のオープン、ECサイトの構築も同じである。
資本家が提供した資金があってはじめて起業家も事業を立ち上げることができる。そして、厳しい条件をくぐり抜け、成功した起業家だけが、次の世代の資本家として資金を出す側に回ることができる。これが従来型資本主義の冷徹なルールであった。
シェアリングエコノミーで資本が不要に
ところが新しい資本の時代においては、「お金」の果たす役割が相対的に低下してくる。
最近の起業家が、新しい事業をスタートするにあたって必要とする初期投資額は、おそらく20年前の数十分の一になっている可能性が高い。ほとんどのビジネスリソースがネットを使って安価に調達できるため、起業家は初期投資額を最小限に抑えることが可能となっているからだ。
これは大規模なシステムを使ったスケールの大きいビジネスでも同じである。このところ情報システムの世界では、自社内にサーバーを設置せず、アマゾンが提供するクラウドサービスに、システムを丸ごと移管するケースが急増している。
こうしたクラウドサービスは、システムが必要とする処理能力を、即時に、そして柔軟に設定できる。たとえば、最初は安い金額で従来のサーバー1台分の処理能力を購入し、テスト的にウェブサイトを立ち上げてみる。もし急激にサイトの人気が上昇し、アクセスが殺到する状況になれば、すぐに追加料金を払って、サーバー50台分の能力まで増強するといったことが可能となっているのだ。