最新記事

在日外国人

ママたちの不安を知る、型破りな保育園経営者(1/3)

2015年9月9日(水)16時40分

 たとえば不要なクレームを避けるため、事前にいっさいの責任が親にあることを押しつけられます。入園前に、子どもがトイレでひとりで用を足せるよう教えなければなりません。自分でできることは自分でやる。もしできなければ、その子は家庭できちんとした教育を受けていないと思われます。

 おもらししたまま、ママの迎えを待っているなんてかわいそうなことですが、それも母親への教育なのでしょう。でもママとしては、先生は何をしているのか、どうしてうちの子をずっと座らせていたのか、と疑問に思う。保育園の先生はそれには触れず、子どもに基本的なことを教えていないと母親を責め、自宅でもっとトイレ・トレーニングをするようにといいます。要するに、責任を親に押しつけているのです。

 私はその時も感情的になって区役所へ行き、不満をぶちまけましたが、いまではよくわかります。先生としては、どの子も命です。子どもは生タマゴのようなもので、ちょっと当てるとすぐに壊れる。どんなことでも起こり得ます。このような不要なもめごとを避けるため、まずは親を教育し、親自身に至らなかったことを理解させる。このようにすれば保育者への責任追及が難しくなるのです。

 日本での子育ては、なんて大変なのかと思いました。手助けしてくれる肉親も友だちもいない私は、育児の悩みを夫にまき散らしました。初めは日本語が話せなかったので、夫もさほど理解できず、私のしかめっ面と興奮状態を目にするだけでした。家族を養うために日々働いて疲れているのに、帰宅してからも妻のにこやかな顔が見られない。彼もうんざりしていました。こうして私たち夫婦の間も、冷めていったのでした。

 夫婦関係が悪くなると、自分の精神的なプレッシャーもより大きくなりました。出産してからの1年間で13キロもやせてしまい、髪の毛も3分の1が抜け落ちました。食事ものどを通りません。栄養失調になり、自分はがんなのかと疑いましたが、実際にはうつ病でした。

 毎日、息子を連れて公園へ行き、ほかの子が楽しそうなのを目にすると、涙があふれ出しました。すると息子は自分が何か悪いことをしたかと思い、「いい子にするから、ママ泣かないで」などといいます。そのたびにますます心を痛めました。

 しかも日本の育児環境は、中国と異なります。中国だったら、親切で世話好きの人が多く、子どもを抱いた若いママが泣いていると「何を気にしているの?」「できることはある?」などと誰かが声をかけてくれます。一方、日本では、気にとめる人は少ない。自分の子に「あっちへ行ってなさい」といい、私たち親子から離れていくようなママもいました。実際、私は公園で1カ月ほど泣いていましたが、1人も声をかけてくれなかったのです。

 息子は公園で遊ばなくなり、私にくっついて離れなくなりました。ママを見失うのではと不安を覚えたのでしょう。でも子どもがピッタリくっつくほどに、私の気持ちはへこみました。負のスパイラルに陥っていたのです。

※ママたちの不安を知る、型破りな保育園経営者:第2回はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋

ビジネス

投資家がリスク選好強める、現金は「売りシグナル」点
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中