最新記事

株の基礎知識

なぜアメリカの「雇用」に注目が集まるのか、投資をする人が見るべきポイントは?

2023年2月3日(金)08時40分
佐々木達也 ※かぶまどより転載

複数のデータで景気の先を読む

雇用統計とあわせて参照したいデータとして、いくつかの経済指標を紹介します。

■民間企業による先行指標「ADP雇用統計」

ADP(オートマチック・データ・プロセシング)は民間の給与計算を代行している会社です。このADPが集計した非農業部門の雇用者数は、労働省労働統計局の雇用統計が発表される2日前の水曜日に発表されることから、先行指標として参照されています。

かつては、両者の数値の方向性が大きく異なっていることも多かったのですが、ADPの計算モデルの改善などもあり、近年では統計の方向性が近づいてきています。

■速報性の高い「新規失業保険申請件数」

新規失業保険の申請件数は、新たに失業した人が失業保険を申請した件数を集計した経済指標です。毎週木曜日に、労働省雇用訓練局( https://www.dol.gov/)から発表されます。

重視されるのは前週比のデータで、概ね40万人を超えると不況、30万人を割って20万人に近づくと好況を示しているとされます。毎週の発表なので速報性が高く、景気の谷に2〜3か月先行することから、失業率などの先行指標としても参考にされています。

■企業の景況感がわかる「ISM景況感指数」

ISMとは全米供給管理協会(Institute for Supply Management)のことで、その代表的な指数として「ISM景況感指数」があります。

このISM景況感指数は、全米の製造業やサービス業(非製造業)の購買(仕入れ)担当責任者に対してアンケートを行い、集計します。アンケート項目には「雇用」「仕入れ」などさまざまな項目があり、「雇用」などに対する企業のマインドを知ることができます。

雇用はアメリカ経済の屋台骨

ここで紹介した雇用関係の経済指標には、ひと頃よりはピークを過ぎた感も出ているものの、いまだ活況が続いているアメリカの雇用状況が反映されています。

低い失業率や高い賃金の伸び率の状況が続いていることから、サービス業を中心とした値上げ(インフレ)の圧力は高止まりしています。こうした環境の中で、FRBがタカ派姿勢を緩めていないことが、株式市場にとって逆風となっています。

しかし裏を返せば、FRBの目的である「雇用の最大化」を考えれば、底堅い雇用があるからこそFRBは安心して金融引き締めを続けることができている、ともいえます。

インフレの一服や金融引き締め効果で雇用の環境が緩やかに落ち着き、平均賃金の伸び率や非農業部門の雇用者数のスローダウンが続くと、FRBは手綱を緩めることができ、株式市場にとって良い状況が訪れるでしょう。

株式市場は、今年後半の利上げ停止やその先の利下げ期待を織り込みつつあります。2022年はインフレや雇用関係の指標に右往左往した一年でしたが、こうした流れは2023年も継続しそうです。金融政策に重要なファクターの雇用についても、引き続き注目です。

[執筆者]
佐々木達也(ささき・たつや)
金融機関で債券畑を経験後、証券アナリストとして株式の調査に携わる。市場動向や株式を中心としたリサーチやレポート執筆などを業務としている。ファイナンシャルプランナー資格も取得し、現在はライターとしても活動中。株式個別銘柄、市況など個人向けのテーマを中心にわかりやすさを心がけた記事を執筆。

※当記事は「かぶまど」の提供記事です
kabumado_newlogo200-2021.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ政権、台湾に追加投資と人材育成を要求 通商

ビジネス

10月スーパー販売額2.7%増、節約志向強まる=チ

ビジネス

中国、消費促進へ新計画 ペット・アニメなど重点分野

ワールド

米の州司法長官、AI州法の阻止に反対 連邦議会へ書
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中