なぜアメリカの「雇用」に注目が集まるのか、投資をする人が見るべきポイントは?
複数のデータで景気の先を読む
雇用統計とあわせて参照したいデータとして、いくつかの経済指標を紹介します。
■民間企業による先行指標「ADP雇用統計」
ADP(オートマチック・データ・プロセシング)は民間の給与計算を代行している会社です。このADPが集計した非農業部門の雇用者数は、労働省労働統計局の雇用統計が発表される2日前の水曜日に発表されることから、先行指標として参照されています。
かつては、両者の数値の方向性が大きく異なっていることも多かったのですが、ADPの計算モデルの改善などもあり、近年では統計の方向性が近づいてきています。
■速報性の高い「新規失業保険申請件数」
新規失業保険の申請件数は、新たに失業した人が失業保険を申請した件数を集計した経済指標です。毎週木曜日に、労働省雇用訓練局( https://www.dol.gov/)から発表されます。
重視されるのは前週比のデータで、概ね40万人を超えると不況、30万人を割って20万人に近づくと好況を示しているとされます。毎週の発表なので速報性が高く、景気の谷に2〜3か月先行することから、失業率などの先行指標としても参考にされています。
■企業の景況感がわかる「ISM景況感指数」
ISMとは全米供給管理協会(Institute for Supply Management)のことで、その代表的な指数として「ISM景況感指数」があります。
このISM景況感指数は、全米の製造業やサービス業(非製造業)の購買(仕入れ)担当責任者に対してアンケートを行い、集計します。アンケート項目には「雇用」「仕入れ」などさまざまな項目があり、「雇用」などに対する企業のマインドを知ることができます。
雇用はアメリカ経済の屋台骨
ここで紹介した雇用関係の経済指標には、ひと頃よりはピークを過ぎた感も出ているものの、いまだ活況が続いているアメリカの雇用状況が反映されています。
低い失業率や高い賃金の伸び率の状況が続いていることから、サービス業を中心とした値上げ(インフレ)の圧力は高止まりしています。こうした環境の中で、FRBがタカ派姿勢を緩めていないことが、株式市場にとって逆風となっています。
しかし裏を返せば、FRBの目的である「雇用の最大化」を考えれば、底堅い雇用があるからこそFRBは安心して金融引き締めを続けることができている、ともいえます。
インフレの一服や金融引き締め効果で雇用の環境が緩やかに落ち着き、平均賃金の伸び率や非農業部門の雇用者数のスローダウンが続くと、FRBは手綱を緩めることができ、株式市場にとって良い状況が訪れるでしょう。
株式市場は、今年後半の利上げ停止やその先の利下げ期待を織り込みつつあります。2022年はインフレや雇用関係の指標に右往左往した一年でしたが、こうした流れは2023年も継続しそうです。金融政策に重要なファクターの雇用についても、引き続き注目です。
[執筆者]
佐々木達也(ささき・たつや)
金融機関で債券畑を経験後、証券アナリストとして株式の調査に携わる。市場動向や株式を中心としたリサーチやレポート執筆などを業務としている。ファイナンシャルプランナー資格も取得し、現在はライターとしても活動中。株式個別銘柄、市況など個人向けのテーマを中心にわかりやすさを心がけた記事を執筆。