最新記事

BOOKS

1件40円、すべて「自己責任」のメーター検針員をクビになった60歳男性

2020年8月27日(木)07時35分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<どんな内容の仕事なのか意識したこともなかったが、この本を読んだ今は分かる。「検針が簡単」は「精神的に楽」と同義ではない>

世の中にはさまざまな仕事があるが、自分の日常には関わりの少ない職種については、当然のことながら意識する機会は少ない。例えば、『メーター検針員テゲテゲ日記――1件40円、本日250件、10年勤めてクビになりました』(川島徹・著、フォレスト出版)の主役である「メーター検針員」という仕事も、そのひとつかもしれない。

時々「こんにちは、メーターの検針です」と声をかけて作業をしていく方に出会うことはあるものの、彼らが行っている仕事の内容や、そこに絡む問題などについてまでは、なかなか考えられないもだ。

でも著者によれば、仕事自体は難しいものではないらしい。


 電気メーターの検針は簡単である。
 電気メーターを探し、その指示数をハンディに入力し、「お知らせ票」を印刷し、お客さまの郵便受けに投函する。1件40円。
 件数次第で、お昼すぎに終わることもあれば、夕方までかかることもある。仕事は簡単なので、計器番号などの小さな数字を読みとれる視力があり、体力があれば、だれにでもできる。(「まえがき――1件40円の仕事」より)

とはいえ、それはあくまで「基本的な話」だ。晴れの日だけに仕事をすればいいわけではなく、雨や雪が降ることもあるだろうし、強風に耐える必要もある。それ以前に、暑さや寒さに耐えなければならない。

獰猛な犬が待ち受けている可能性も否定できず、イラついた若い男性やヒステリックな奥さんなどから、心ない言葉を投げかけられたり、理不尽な扱いを受けることもあり得るらしい。

少なくとも「検針が簡単」は、「精神的に楽」とは同義ではないということだ。

著者は大学卒業後は外資系企業に就職するも、作家になりたいという夢を捨てきれず40代半ばで退職したという人物。以後、50歳からの10年間を電気メーター検針員として過ごしてきた。

10年も続けていれば得るものもあるような気がするが、残念ながらあと数年で電気メーターの仕事はなくなってしまうのだそうだ。スマートメーターという新しい電気メーターが導入され、検針は無線化。電気の使用量は30分おきに電力会社へ送信されることになるからだ。


 しかし、メーター検針員という仕事はなくなっても、本書で書いた現場で働く人の苦労はなくならないだろう。
 仕事中、交通事故で死んだ検針員がいた。労災はなかった。「業務委託契約」だったからだ。私が就職時に結んだ業務委託契約書を思いだしてみても、「己の判断で行なうものとする」「己の責任で行なうものとする」というような文言がたくさんあったように記憶している。(「まえがき――1件40円の仕事」より)

【関連記事】毒親を介護する50歳男性「正直死んでくれとも思うんです」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送トランプ氏支持率40%、任期中最低 生活費対策

ワールド

イスラエル軍、ガザ市を空爆 ネタニヤフ氏「強力な」

ワールド

新型弾道ミサイル「オレシニク」、12月にベラルーシ

ビジネス

米CB消費者信頼感、10月は6カ月ぶり低水準 雇用
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 4
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 5
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 6
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 7
    「何これ?...」家の天井から生えてきた「奇妙な塊」…
  • 8
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 9
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中