サウジ石油施設攻撃などの地政学的リスクは株価にどう影響するか
これらの株価は、事件後に大きく上昇した。その理由を細かく解析すれば、「石油生産能力が低下したことで生産量が減少する→原油の世界的需給バランスが崩れる→原油価格が上昇する→石油関連企業の利幅が大きくなる」という流れが連想された、ということになる。
この例に限らず、他のテロ攻撃や紛争、ハリケーンの到来などによって原油生産の停滞が予想される際にも、このような株価上昇は頻繁に起こる。しかし、買われすぎと考えられることも多くの場面で見受けられる。
■投資家はどう考えればいいのか
株式の価値は将来の継続的な利益水準に依存している。そのため、株価が長期的に上昇する(または上昇した後で長期的にその水準が維持される)ために重要なのは、「その材料が利益の増加にどれだけ長期的に寄与するか」だ。
ここでいう「長期」とは5~10年以上を想定している(機関投資家の行うファンダメンタルズ分析も、5~10年以上の業績予想がベース)。
たとえば、今回のサウジアラビア石油施設攻撃に関して考えてみたい。
原油の需給が逼迫して原油価格が上昇した場合、確かに石油関連企業の収益性は向上する。しかし、その効果はどの程度、続くのだろうか。ポイントは「原油生産が回復するまでに、どの程度の時間が必要か」だ。回復すれば需給バランスは元に戻り、価格・利幅も元通りとなってしまう。
「石油施設が攻撃を受けて、生産能力の半分が失われた」と聞いて、その回復までにどれだけの期間が必要だと思うだろうか。1カ月、3カ月、半年、1年、3年......もしかしたら、わずか1週間?
■損失を避ける鍵となるもの
今回の攻撃では、サプライズ的にわずか1週間ほどでほぼ回復したと報じられた。では、3カ月かかると思った投資家は失敗なのかといえば、決してそうではなく、成否を分けたのは「さすがに5年はかからないだろう」という感覚だ。
株価の話とつなげると、需給の逼迫による原油価格の上昇とそれによる関連企業への恩恵が、長期(5年)にわたって続くと想定したか、それとも短期的なもので終わると考えたか。
結果論となるが、今回の事件後に上昇した石油関連銘柄の多くは、その後1カ月足らずで株価の上げ幅をほぼ失い、以前の水準に戻ってしまった。
このように、事件発生直後の株価上昇を目にした際には、「その高い水準が長く続くのか、またはすぐに失速するのか」をイメージすることで損失を回避しやすくなる。あるいは場合によっては、うまく利益につなげられこともあるだろう。