自動車とジェネリック医薬品、両業界に共通する「成功を手助けする黒子」の存在
すでに人気の商品を別の場所で展開する
サンフランシスコの料理人スティーブ・エルズは、1970年代にメキシコ料理専門店をオープンしようと考えていたが、大繁盛する可能性はかなり低そうだと思った。
ベイエリアにはメキシコ料理店がひしめいていて、恐ろしく競争が激しい。そこで彼は、メキシコ料理のファストフード店を、タコスが比較的珍しい場所にオープンすることを思いついた。デンバーだ。店は「チポトレ」と名づけた。
エルズは、最初からフランチャイズ・チェーンを築こうとしたわけではなかった。ただ単に賃料が払えて、黒字になるレストランをつくろうとしただけだった。しかし、1号店に行列ができたとなれば、いやでもその可能性の大きさがわかる。
エルズのエピソードで注目すべき点は、その成功がある1つの決断から始まったということ。つまり、ある地域で人気を獲得している商品を見つけて、それをまったく別の場所に紹介した、という決断だ。
この手法は、タコス以外にもたくさんのものに応用できるアプローチといえる。
経験豊富な実業家は、チポトレなどのケーススタディからビジネス戦略を学ぶことで、成功事例のブループリント(計画図)のデータベースを頭の中に構築している。
このブループリントのデータベースによって、優れた実業家は機が熟したときにそれを捉えて、現在あるリソース以上に利益を生み出すアイデアの捻出に力を注げる。
チポトレのケーススタディから、野心ある実業家に役立ちそうな、さまざまなヒントを考えてみよう(下の図表参照)。
大反対された「スターバックス」
チポトレは、このブループリントを利用して出現した数多くの成長著しいチェーンの1つだが、実は「スターバックス」もそうだ。
1980年代、スターバックスはコーヒー通に豆を販売するだけの小売業者で、店舗数もほんの数店しかなかった。スターバックスにマーケティング・ディレクターとして新たに採用された元ゼロックス営業マンのハワード・シュルツは、あるときミラノを訪れていくつものエスプレッソ・バーを目にした。シュルツはすっかり気に入った。
アメリカにこんな店はない。アメリカでは、味のしないスーパーマーケットのコーヒーや、コーヒーショップとは名ばかりの多少こぎれいな食堂と大差ない店が当たり前だった。
シアトルでなら、コーヒーハウス文化が花開きはしないだろうか?
しかし、スターバックスの経営陣はこのアイデアに興味を示さなかった。彼らはホスピタリティ事業には手を出さないと言って譲らなかったが、シュルツは粘って最終的に同社CEOに試験的に1店舗だけ出すことを認めさせた。そして、これが驚くほどの成功を収めた。
だが、それほどの人気を獲得しても、同社の創業者たちは店舗数を増やすシュルツの計画に断固反対した。
シュルツは仕方なくスターバックスを辞め、自分でエスプレッソ・バーを開いた。