最新記事
人間関係

なぜ「共感」は、生きづらさを生んでしまうのか...「伝える」よりはるかに強い「伝わる」の魔法の力

2024年6月27日(木)12時15分
flier編集部

「伝える」はとても難しいもので、子育てにおいても、伝えたいことは子どもになかなか伝わらない。一方で、魔法のように「伝わってしまう」ものもある。たとえば、木が花を咲かせると虫がやってくる。まったく違う種同士なのに、何かが「伝わっている」というのは魔法のようです。

真剣に発せられた生命のメッセージには、共感なんてレベルをはるかに超えて「伝わる」力がある。植物と昆虫とのあいだですら、なにかが伝わり合ってしまうのは、とても不思議です。


一方で、「共感」というのはとても人間的な力だと思います。たとえば、椿の花が咲いたことに、土のなかのミミズが共感したりなんてしない。それでも椿やミミズや苔やイモムシが、同じ庭や自然の一角で共存することができる。共感がなくても共存できるというのが自然の素晴らしいところです。

花や植物が人間をなぐさめてくれるのは「無関心だからだ」とヴァージニア・ウルフが書いています。僕たちが山や庭を歩いていて心安らぐのは、まわりが自分に無関心でいてくれるからです。散歩中にマツの木や小鳥から「大変だったね」と共感されたら、つらいじゃないですか(笑)。

──「放っておいてよ」と思ってしまいます(笑)。

そんな中、人間は共感という不思議な力をもっています。たとえば、人間は、元気のなさそうの山の木のことを心配して、水の流れを整えるために、木の根元に水が浸透しやすくなるように石を据えてやるといった働きかけや手入れをします。

自然のまま放っていたら、石が低いところから高いところに移動することはあり得ない。自然の秩序に抗ってでも、木が少しでも生きやすくなる環境を生み出そうとさせるのは人間の「共感」の力です。人間は、他者への共感に基づいた行為によって、世界に新たな秩序をつくっていくことができる生き物なんです。

共感なんてせずとも生命はたがいに共存し、進化してきた。共感はとても新しい力です。新しい力には危うい面もあって、共感の力があまりにも強いと、心に大きな負荷がかかります。

──深い共感が生きづらさにもつながるのはそのためだったのですね。

一方で共感の力によって、重い石が運ばれ、水の流れを変えて、それが山の木を元気にするというのはすごいことですよね。ある存在がいなければ生まれなかったはずの秩序がつくられるというのは、それ自体が驚くべきことです。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

SBI新生銀行、東京証券取引所への再上場を申請

ワールド

ルビオ米国務長官、中国の王外相ときょう会談へ 対面

ビジネス

英生産者物価、従来想定より大幅上昇か 統計局が数字

ワールド

トランプ氏、カナダに35%関税 他の大半の国は「一
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中