最新記事
人間関係

なぜ「共感」は、生きづらさを生んでしまうのか...「伝える」よりはるかに強い「伝わる」の魔法の力

2024年6月27日(木)12時15分
flier編集部

──翻訳を経て、『センス・オブ・ワンダー』との向き合い方に変化はありましたか。

当初、カーソンの自然観について懐疑的な気持ちが少なからずありました。ところが、彼女のテキストをくり返し読むうちに、日常生活でも影響を受けていきました。身近な例だと、カーソンとその大甥のように、僕も4歳の長男と一緒に双眼鏡で月を見るというように。


すると『センス・オブ・ワンダー』で記述されていてもおかしくないような出来事が、日常生活で起こってくるんですね。やがて僕の中で彼女の文章の続きのようなものが自然と生まれはじめていった。この続きを14か月にわたり「ちくま」で連載できたのは、本当に楽しい経験でした。

連載後にカーソンのテキストに戻ると、印象がまったく変わっていた。批判的に読もうとした、自分の「外側」にあったテキストが、まるで自分の記憶のように感じられることがあった。「内側」から出てくる言葉を訳していくような感覚に変化してからが、本当の意味での翻訳でした。この翻訳と書き継いだ文章全体を一冊にしたのが本書です。「翻訳とそのつづき」というこの形式自体が、世の中にあまりない新しい試みになっていると思います。

──『センス・オブ・ワンダー』で懐疑的に思っていた自然観とはどんなものだったのでしょう?

自然の美しさの特定の面が強調されていて、あまりに「清潔」な自然観だと受け止めていました。鳥の鳴く声を聞き、夜空を見上げる場面はあっても、「食う・食われる」の関係や、死者の話は出てこない。僕は、生み出す力と同じくらい、滅ぼす力も自然の偉大な力だと思っています。生と死、美しさと怖さ、そうしたすべてを包摂した自然観を大切にしながら、このテキストを書き継いでみようとしました。実際にこれを試みて感じたことは、カーソンのテキストが、多様な自然観によって書き継がれていく可能性に開かれていることです。『センス・オブ・ワンダー』はそういう意味で、とても懐の深いテキストだと思います。

──カーソンに対してはどのように捉えていますか。

カーソンは幼い頃から本を読むこと、文章を書くことが大好きでした。大学では英文学科に進みましたが、大学で出会った生物の先生から学んだ進化論が特に、カーソンの文学的創造力を刺激したようです。1930年代当時に進化論を学べる機会は稀でした。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第3四半期速報値は4.3%増 予想上回る

ビジネス

米CB消費者信頼感、12月は予想下回る 雇用・所得

ワールド

トランプ氏「同意しない者はFRB議長にせず」、就任

ワールド

イスラエルのガザ再入植計画、国防相が示唆後に否定
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中