なぜ「管理職は罰ゲーム」と言われるようになったのか...「働き損」の職場は、どうすれば変えられる?
──「ジジイの壁」とは具体的にどのようなものですか。
組織の意思決定層と現場との間に立ちはだかっている壁です。ここでの「ジジイ」とは、性別や年齢に関係なく、組織内で権力をもち、その権力を組織でなく自分のために使う人たちの総称です。
誰しも、置かれている環境が衰退に向かっていくと、保身に走りがちですが、もっとも怖いのは手に入れた褒美を手放すことです。「ジジイの壁」の中の人たちは自分の権力に固執し、自分たちの得になる意思決定ばかりおこないます。暗黙の無責任同盟も結ばれているので、実にやっかいです。
『他人をバカにしたがる男たち』を出版した2017年時点と比べると、働き方改革、パワハラ防止、コンプライアンスの徹底、ダイバーシティ推進など、労働環境は変わってきました。一方で、意思決定層にある人と現場の人との乖離は、どんどん大きくなっています。
「ジジイの壁」はどんどん高く、強固になっています。ヒエラルキーの最上階にとどまる「ジジイ」も増えているので、壁の向こうは上の顔色しかみていません。
このように、「ジジイの壁」という日本の社会構造が、現場で働く人の意欲を奪い、「働き損」だと感じさせているのです。
管理職の「罰ゲーム化」は本当か?
──「働き損」と関連して、最近では管理職を「罰ゲーム」とする特集がメディアで組まれています。管理職の負担が増えて働きがいも減っている点が注目されていますが、この現象に対する河合さんのお考えをお聞かせいただけますか。
実はメディアで管理職を「罰ゲーム」と呼ぶ現象にモヤモヤを感じていました。この1年くらいで管理職が大変になったという論調も見かけます。
ですが、高度成長を遂げた1970年代後半には、中間管理職の会社員が突然、心筋梗塞や心不全、脳出血・くも膜下出血などの疾患で命を失う悲劇が多発していきます。これがきっかけで「過労死」という言葉が生まれました。また、1980年から2005年までの26年の間に、ストレス性の疾患である心筋梗塞や脳卒中で亡くなる人が管理職以外では漸減していたのに、管理職では70%も増加していたこともわかっています。
この数年で「管理職になりたくない人」が増えたように言われていますが、2000年代後期くらいにおいても、「管理職になりたくない人」は一定数存在したはずです。世の風潮として、会社から昇進を打診されたらいやと言えなかっただけ。つまりいまは、個々人の価値観に沿わないキャリア選択にNoと言える時代になったんです。