最新記事
ビジネス

なぜ「管理職は罰ゲーム」と言われるようになったのか...「働き損」の職場は、どうすれば変えられる?

2024年6月5日(水)18時57分
flier編集部

管理職の「罰ゲーム化」を河合薫氏に聞く

『働かないニッポン』著者で健康社会学者の河合薫さん(flier提供)

──「ジジイの壁」とは具体的にどのようなものですか。

組織の意思決定層と現場との間に立ちはだかっている壁です。ここでの「ジジイ」とは、性別や年齢に関係なく、組織内で権力をもち、その権力を組織でなく自分のために使う人たちの総称です。

誰しも、置かれている環境が衰退に向かっていくと、保身に走りがちですが、もっとも怖いのは手に入れた褒美を手放すことです。「ジジイの壁」の中の人たちは自分の権力に固執し、自分たちの得になる意思決定ばかりおこないます。暗黙の無責任同盟も結ばれているので、実にやっかいです。

『他人をバカにしたがる男たち』を出版した2017年時点と比べると、働き方改革、パワハラ防止、コンプライアンスの徹底、ダイバーシティ推進など、労働環境は変わってきました。一方で、意思決定層にある人と現場の人との乖離は、どんどん大きくなっています。

「ジジイの壁」はどんどん高く、強固になっています。ヒエラルキーの最上階にとどまる「ジジイ」も増えているので、壁の向こうは上の顔色しかみていません。

このように、「ジジイの壁」という日本の社会構造が、現場で働く人の意欲を奪い、「働き損」だと感じさせているのです。

管理職の「罰ゲーム化」は本当か?

──「働き損」と関連して、最近では管理職を「罰ゲーム」とする特集がメディアで組まれています。管理職の負担が増えて働きがいも減っている点が注目されていますが、この現象に対する河合さんのお考えをお聞かせいただけますか。

実はメディアで管理職を「罰ゲーム」と呼ぶ現象にモヤモヤを感じていました。この1年くらいで管理職が大変になったという論調も見かけます。

ですが、高度成長を遂げた1970年代後半には、中間管理職の会社員が突然、心筋梗塞や心不全、脳出血・くも膜下出血などの疾患で命を失う悲劇が多発していきます。これがきっかけで「過労死」という言葉が生まれました。また、1980年から2005年までの26年の間に、ストレス性の疾患である心筋梗塞や脳卒中で亡くなる人が管理職以外では漸減していたのに、管理職では70%も増加していたこともわかっています。

この数年で「管理職になりたくない人」が増えたように言われていますが、2000年代後期くらいにおいても、「管理職になりたくない人」は一定数存在したはずです。世の風潮として、会社から昇進を打診されたらいやと言えなかっただけ。つまりいまは、個々人の価値観に沿わないキャリア選択にNoと言える時代になったんです。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ロのキーウ攻撃を非難 「ウラジミール、

ビジネス

米3月耐久財受注9.2%増、予想上回る 民間航空機

ビジネス

米関税措置、独経済にも重大リスク=独連銀総裁

ワールド

米・ウクライナ鉱物資源協定、週内に合意ない見通し=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 5
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    謎に包まれた7世紀の古戦場...正確な場所を突き止め…
  • 8
    「地球外生命体の最強証拠」? 惑星K2-18bで発見「生…
  • 9
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中