17歳で出産、育児放棄...25歳で結婚、夫が蒸発...「後悔なんてしない」「過去は振り返らない」は間違い
写真はイメージです fizkes-shotterstock
<人生における「後悔」は少ないほうがいいに決まっている――本当にそうだろうか。ベストセラー作家のダニエル・ピンクが大規模調査から明らかにした、後悔がもつ意外な力とは>
・「父を救えなかった」家族を亡くした男性の後悔
・J1監督が退任「後悔はありません」
・「母親になって後悔してる」著者が語る息苦しさ
これらは最近のニュース記事の見出しだが(一部加工)、今日も世界のあちこちで後悔している人がいる。その一方で「後悔なんてしない」と決めている人もいる。
人生において「後悔」は少なければ少ないほどいい――本当にそうだろうか?
ベストセラー作家であり、世界のトップ経営思想家を選ぶ「Thinker50」の常連でもあるダニエル・ピンクが、人間だれしもがもつ「後悔」という感情に立ち向かった。
米国内外で大規模な調査プロジェクトを実施し、その結果分かったのは、後悔とはきわめて健全で、人間にとって欠かせないものであること。後悔とうまく付き合えば、よりよい人生を送る手助けになると説くピンクの著書は話題を呼び、世界42カ国でベストセラー入りしている。
このたび刊行された日本版『The power of regret 振り返るからこそ、前に進める』(かんき出版)から一部を抜粋・再編集して掲載する(この記事は抜粋第1回)。
※抜粋第2回:5歳の子どもは後悔しないが、7歳は後悔する...知られざる「後悔」という感情の正体とは?
※抜粋第3回:悲しみ、恥、恐怖、嫌悪感、後悔...負の感情が人生に不可欠な理由と、ポジティブな「後悔」の仕方
「アンチ後悔主義」の危うさ
私たちがいだく人生の信条のなかには、静かなBGMのようにその人の行動に影響を及ぼすものがある一方で、その人の生き方の指針を高らかに歌い上げるものもある。
とりわけ大音量で鳴り響くことが多い信条のひとつは、ものごとを後悔することは愚かであるという考え方だ。後悔は時間の無駄であり、精神的幸福を妨げる――このような発想は、世界のあらゆる文化圏で声高に唱えられている。
具体的には、こんなふうに考える。過去のことは忘れて、未来をつかみ取ろう。つらいことなんて思い出すな。楽しいことだけ考えよう。よい人生を生きるためには、前に進むことに集中し、ひたすらポジティブなことだけを考えるべきだ。
ところが、後悔はその妨げにしかならない。うしろ向きの発想と不愉快な感情を生むからだ。それは、幸福の血液の中に混ざる有毒物質のようなものである......。
ある信条を信奉していることを表現する手段としては、それをみずからの肉体に刻むことほど強力なものはないかもしれない。右肘と右手首の間に黒いアルファベットの小文字で「no regrets」(編集部注:「後悔なし」の意)と彫ったブルーノ・サントスのような人は、途方もない数に上る。
性別も信仰も政治思想も異なるアメリカ文化の二人の巨人も、この信条を共有している。
ポジティブ思考の始祖であるノーマン・ヴィンセント・ピール牧師は、「いっさい後悔などすべきでない」と説いた。ピールは二〇世紀アメリカのキリスト教信仰のあり方を形づくった人物であり、保守派の大統領であるリチャード・ニクソンやドナルド・トランプの師でもあった。
一方、「後悔することで時間を無駄にしてはならない」と語ったのは、ルース・ベイダー・ギンズバーグだ。アメリカの連邦最高裁判所の判事を務めた史上二人目の女性であり、信仰はユダヤ教。晩年はアメリカのリベラル派の間で女神のように崇められる存在になった。
あなたの町の書店で自己啓発本の棚に並んでいる本を調べれば、ざっと半分は同様のメッセージを説いているに違いない。米国議会図書館には、『No Regrets』というタイトルの書籍が五〇点以上所蔵されている。