最新記事
DE&I

障がいのある人に、「アートの力」で自信と生きる道を──ものづくりブランド「fa」の挑戦

PR

2023年11月15日(水)10時00分
写真:遠藤宏 文:一ノ瀬伸

就労継続支援B型事業所「GENIUS」のアーティスト

独自の感性でオリジナリティ溢れる作品に仕上げる

「息子のこともあって障がいのある人の就労に興味を持ったときに、調べてみるとほとんどが単純作業だったんです。もちろんそれができることもすばらしいですが、仕事の種類の幅が狭くて輝けない人もいるんじゃないかなと同時に思いました。アートには障がいも障壁もないと考えているので、アートの土俵ならば勝負できて、もっと輝ける人がきっといるはずだ、と」

ワクワクするクリエイティビティ

創業後すぐにコロナ禍に入ってしまい利用者を募るのに苦労もあったが、その取り組みが地元のテレビや新聞などに注目され徐々に地域に知られていった。現在、アーティストとして活動する利用者は約30人。そのうち20人ほどがアトリエに通っていて、自宅で制作活動をする者もいる。通う日数や参加の仕方はそれぞれのペースに応じて柔軟だ。

アトリエでは、現役作家や元美術教師ら4人がアートコーチとして付き添うが、作品のテーマはアーティストが自分の興味や関心に基づいて自由に決める。教えるのではなく、画題や技法の選択肢を伝えながら、一人ひとりが個性や能力を発揮できるように導いていく。

ある男性アーティストは、緻密な描写が得意で航空写真をもとに描いた絵は空白をびっしりと埋める驚きの完成度。別の男性は、背景から塗ったうえにユニークなキャラクターや文字を配する独自の技法を持っている。隣町から電車で通っている女性は、道中に見ている日常風景を切り取る。

壁一面に数多くの絵画や造形が飾られているアトリエ室内だが、初めて見る人でもアーティストごとに作品を仕分けられそうなくらい、個々の作風は際立っている。

「『自由に表現してください』って言ってもなかなか難しいじゃないですか。だからまずは、小さい紙から始めてみたり、アイディアを提案していったりして『開く』ことが大事だと思っています。アートコーチと一緒にいろいろと試していくうちに、少しずつ自分の作風やアイデンティティのようなものが見出されていくんです。想像を超えるような多彩でクリエイティブな作品が日々生まれていることに僕自身いつもワクワクしています」

就労継続支援B型事業所「GENIUS」で生まれる作品

驚くほど独創的で美しい作品が日々生み出されていく

自信につながるキーワード

制作の時間は和気あいあいとした雰囲気につつまれている。机に向かって真剣な表情で絵を描いているかと思えば、今度は誰かが冗談を言ってみんなの笑い声が響きわたる。毎日の朝礼では一人ひとりがその日のプランを話し、終礼では作品の進捗状況を見せ合って拍手をする。そこには評価も否定も、いっさいない。

西村氏はアーティストと関わるなかで、「おもしろいね」という言葉を繰り返していた。「おもしろがることで発見できる価値がありますし、おもしろさという点で見ていくとみんなの安心感や自信にもつながると思うんです」と話す。

日々の制作を通じて利用者の表情が明るくなっていくことに、手ごたえややりがいを感じているという。

「長年家に引きこもっていた人が週に1日通えるか通えないかという状況から、だんだんと頻度が増えて毎日通えるようになったり、呼びかけにも応じなかった人が仲間と冗談を言うようになったり、そういうアートを通じて心の回復や成長する姿が一番うれしいです。ここを卒業して、就職していく人もいます」

就労継続支援B型事業所「GENIUS」

就労継続支援B型事業所「GENIUS」

終礼ではそれぞれの作品の進捗状況を発表し、互いに拍手をおくり合う

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中