「具体化と抽象化だけで、仕事の10割はうまくいく」...なぜリーダーは「抽象的」でなくてはならないのか?
プレイヤーほど具体的、リーダーほど抽象的
この単純化した「プレイヤー」「マネージャー」「リーダー」を、90度回転させた組織図に当てはめてみよう。
すると、左側に位置する「プレイヤー」ほど具体的な仕事を担当し、右側に位置する「リーダー」ほど抽象的な仕事を担当することがよく分かる(図3)。
いちばん左側に位置する「プレイヤー」は、実際に「作業」をすることで価値を作り出す人だ。責任を持つ範囲は比較的狭く、何か一部分に特化することが多い。
営業の仕事であれば「担当はこの何人」とか、工場の仕事であれば「この製造ラインのこの部分」という具合だ。時間的な責任範囲は、1日から1ヶ月ぐらいの短期間であることが多い。
「プレイヤー」から少し右側に寄って「マネージャー」の領域になると、仕事は抽象的なことが増えてくる。
管理職は、売上と経費をコントロールして収支を管理するとか、ビジネスモデルを組み立てるとか、あるいは、多数の部下をまとめるための組織作りや制度作りをする、といった抽象的な仕事で価値を生み出す。
責任を持つ範囲は、プレイヤーより広くなり、「営業部全体」とか「経理課全体」というように、ある部署全体の面倒を見ることになる。時間的な責任範囲は長期間になり、1ヶ月〜1年ぐらいで責任を持つことが多い。
あなたの組織に時給の課長や日雇いの部長はいないと思うが、その理由は、責任を持つ時間軸の長さのせいである。ほぼすべての管理職は、月給か年俸で働いているはずだ。
「マネージャー」からもっと右側に移動すると、社長や経営者などの「リーダー」の領域だ。この領域では、価値を生む仕事はさらに抽象的になる。会社の向かう方向性を決める経営理念を考え、組織を支える文化や哲学を生み出すのがリーダーの仕事だ。
リーダーの責任範囲はもちろん組織全体で、もし会社の部署間で利害が対立して協力が進まなかったりしたら、そこを調整しみんなを納得させるのが経営者の役割になる。リーダーが考えるべき時間軸は、マネージャーよりさらに長期間になる。
組織の向かう方向性が1ヶ月ごとに変わってはドタバタしすぎでついていけない。おそらく1年ぐらいが最小単位で、できれば10年以上の先を見据えて経営理念を打ち立てたい。
あなたの組織が階層構造になっている理由は、上の階層の人が下の階層の人に命令するためではない。考えるべき抽象度を、具体から抽象まで役割分担するためなのだ。
この組織の構造を理解すると、上司と部下のコミュニケーションは劇的に改善する。「飲みニュケーション」とか「世代間ギャップの解消」とか「共通の趣味」とかは必要ない。《具体》と《抽象》に注目するだけですべての問題が解決されるからだ。
谷川祐基(たにかわ・ゆうき)
日本教育政策研究所代表取締役。1980年生まれ。愛知県立旭丘高校卒。東京大学農学部緑地環境学専修卒。小学校から独自の学習メソッドを構築し、塾には一切通わずに高校3年生の秋から受験勉強を始め、東京大学理科Ⅰ類に現役合格。大学卒業後、「自由な人生と十分な成果」の両立を手助けするための企業コンサルティング、学習塾のカリキュラム開発を行う。著書に『見えないときに、見る力。:視点が変わる打開の思考法』『賢さをつくる:頭はよくなる。よくなりたければ。』『賢者の勉強技術:短時間で成果を上げる「楽しく学ぶ子」の育て方 』(共にCCCメディアハウス)がある。
『仕事ができる 具体と抽象が、ビジネス10割解決する。』
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