中国経済の「日本化」が、日本にもたらす大打撃
HANDLING THE CHINA RISK
中国政府も、巨額の利益を上げた不動産業者らによる過剰な不動産開発が住宅価格の高騰を招き、個人の住宅購入を困難にさせたことを、格差縮小を目指す「共同富裕」の理念に照らして問題、としている。そのため、不動産業界への本格的な支援には慎重である。
第3は、アメリカとの間の貿易摩擦だ。日本では、アメリカとの貿易摩擦が産業の競争力低下と潜在成長率低下の遠因となったと考えられる。さらに、80年代にはアメリカから内需刺激を通じた輸入拡大を強く求められ、それに応じた過剰な金融緩和がバブルの形成につながった。中国では、近年のアメリカとの激しい貿易対立が、先端分野を中心に経済の打撃となっている。またアメリカとの対抗を意識した政府による民間企業への統制強化が、経済活動を萎縮させてしまった面もあるだろう。
中国では長引く不動産不況の影響から、資産運用商品である信託商品、理財商品などのデフォルトが増えてきており、銀行以外の金融仲介機能であるこうしたシャドーバンキング(影の銀行)の問題が、注目を集めるようになっている。中国国内の金融問題が世界にも波及し「中国版リーマン・ショック」となることを懸念する向きもある。
しかし実際には、シャドーバンキングを中心とする中国の金融問題は、90年代の日本の銀行不安のときと同様におおむね国内にとどまり、世界に大きく波及することはないだろう。この点からも、今後中国で起きることは、リーマン・ショックの再来ではなく「日本化」に近いと言える。
ただし、日本化する中国経済の低迷が、貿易を通じて世界経済に与える悪影響は深刻だ。IMF(国際通貨基金)によると、中国の成長率が1ポイント低下すると、世界の成長率は約0.3ポイント低下する計算だ。
中国の名目GDP(22年)はIMFによると世界の18.5%であり、直接的な影響だけ考えれば、中国経済の成長率が1ポイント低下したときの世界の成長率の押し下げ効果は0.18%程度となる。それを大きく上回る押し下げ効果が生じる計算であるのは、中国経済の下振れが貿易などを通じて他国の経済にもたらす波及効果が大きいことを示している。
主要国の中で最も打撃を受けやすいのは、中国向け輸出が全体の2割を占めるなど、中国経済への依存度が高い日本だろう。内閣府の試算に基づくと、現時点で中国の成長率が1ポイント下振れると、日本の成長率は0.65ポイント下振れる計算となる。実際には、この先数年を展望すれば、中国の成長率の下振れは1ポイントでは済まないだろう。