EVの未来を変える夢の「全固体電池」...トヨタが放った「重要なメッセージ」とは?
The EV Holy Grail
「トヨタの主張で興味深い点の1つは10分で充電できるところ」だと、調査会社S&Pグローバル・モビリティーのステファニー・ブリンリー首席アナリストは言う。「多くの点で、より迅速な充電能力とそれを支える強固なインフラのほうが、1100キロ超の航続距離より重要。消費者が知りたがっているのは充電インフラと充電時間だ。『必要なときに安全かつ確実に充電できるか、時間はどのくらいかかるか』と聞かれて、消費者が信頼できる答えを返せるなら、航続距離はそれほど重要ではない」
多くの自動車メーカーは2030年か35年までに全固体電池を実用化することを目指している。その一方で、カーボン・オフセット(炭素の吸収と排出の相殺)によって気候の安定化を図る「気候ニュートラル」を実現できると喧伝するメーカーもある。要するに、サステナビリティー(持続可能性)に重点を置いて、50年かそれ以前に、車の開発・製造・耐用年数を通じて気候ニュートラルを実現する、というわけだ。
現行品との互換性も必要
これらの取り組みに全固体電池は一役買っている。とはいえ、恐らく現行の自動車も置き去りにはならないだろう。それは現行のEVや充電インフラについても同じだ。
「全固体電池の充電の迅速化の恩恵をフル活用するには充電用の新たなハードウエアが必要になりそうだが、未来の車は現行のハードウエア、特にほとんどの自動車メーカーが採用している北米充電規格(テスラ充電コネクター)と互換性がなければならない」と、EV情報サイトのEVパルスのチャド・キルシャナー・コンテンツ担当副社長は指摘する。
「将来アップデートが必要になるかもしれないが、それはかなり先だろう。今ではみんな1台の車に10年以上乗り続けるからなおさらだ」。S&Pグローバルによれば、アメリカの自動車平均使用年数は20年前の9.7年から現在は12.5年に延びている。
「限定的ではあれ、全固体電池が20年代末に登場すると期待するのは無理もないが、注目すべきは世界で最も大きく、評判が高く、利益を上げている自動車メーカーの1つにおいて、全固体電池開発の道のりが平坦ではなかったことだ」と、EV専門記者のボルカーは言う。「トヨタは17年時点で全固体電池を20年までに実現できると言ったが、今では6年以上後にずれ込んでいる。全固体電池が2030年より前にEVに搭載されるとは思えない」
それでもトヨタのメッセージは重要だとS&Pグローバルのブリンリーは言う。「内燃機関主流の市場からEV主流の市場へのより大規模な移行はたった1つの開発や技術の飛躍的進歩によって決まるわけではない。トヨタの発表は移行に向けた新たな一歩──その一歩一歩が重要なのだ」
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