EVの未来を変える夢の「全固体電池」...トヨタが放った「重要なメッセージ」とは?
The EV Holy Grail
LEO PATRIZI/GETTY IMAGES
<10分の急速充電で1200キロ走る。未来の電気自動車に欠かせない、全固体電池の実用化への期待と課題>
BEVと呼ばれるバッテリー式電気自動車(EV)で目下、航続距離が最も長いのは、米新興メーカーのルシードのセダン、ルシード・エアだ。米環境保護局(EPA)によれば1回の充電で最長約830キロ。しかし6月13日、トヨタ自動車がついにそれを超える可能性に言及した。全固体電池の実用化により、未来のトヨタ車はわずか10分の急速充電で約1200キロの走行が可能になるという。
トヨタなど自動車メーカー各社は自社のエンジニアに次世代EVにとどまらず、その先──電池の性質から航続距離や充電能力まで、未来のEV用の電池技術に目を向けさせている。
現在市販されているBEVは世界中のさまざまな企業から調達したリチウムイオン電池やニッケル水素電池を使用。これらの電池は重くて大きいため搭載車のホイール間のスペースのほとんどを占めるし、車両重量が内燃機関積載車を上回る。重い車両ほど道路にダメージを与える確率が高くなりがちで、電池も搭載車の重量を超えるパワーが必要だ。全固体電池は次なるフロンティアで非常に有望だが、実用化にはまだ時間がかかる。
「全固体電池は待望の技術。量産車に搭載するだけの実用性と拡張性と手頃さを備えたものにするべく、何千人ものエンジニアとベンチャーキャピタルの何十億ドルという資金が投じられてきた」と、米自動車専門誌カー・アンド・ドライバーやエコカー情報サイトのグリーンカーリポートなどのEV専門記者ジョン・ボルカーは言う。「だが、研究段階では有望に思えても現実にはうまくいかない場合が多い」
従来のリチウムイオン電池やニッケル水素電池には、液体や高分子ゲルの電極が使われている。その組み合わせはメーカーごとに異なり、それぞれ自社ブランドに最適の結果を得られるようにしている。全固体電池は電極も電解質も固体で、エネルギー密度がより高く、電池を小型化・軽量化してBEVの航続距離を延ばすように設計されている。
充電スピードが問題
固体技術自体は新しいものではないが、自動車に大々的に使われるようになったのは最近だ。1990年代、米オークリッジ国立研究所の研究者たちが考案した新しいタイプの固体電極に自動車業界は注目。フォード、BMW、トヨタ、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、日産などが全固体電池の開発に投資してきた。
多くのメーカーがエネルギーイノベーション企業と提携。固体技術の開発関連コストは1社当たり数億ドル、場合によっては数十億ドルに上る。
全固体電池の実用化までに自動車メーカーと電池メーカーが解決すべき課題は多い。急速充電用のインフラの整備もその1つだ。