最新記事
景気

アメリカは景気後退へ向かうのか? 各地でフードバンクの需要40%以上増加

2023年5月1日(月)10時21分
ロイター

バージニア州のアパラチア山道沿いに広がる25の郡で活動する「ブルーリッジエリア・フードバンク」のマイケル・マッキー最高経営責任者(CEO)は、コロナ禍の下での緊急支援によって、基本的な経済の実態が隠されてしまったと語る。労働統計局による最新のデータでは、2020年3月以来、インフレ率が賃金上昇率を上回っていた。

「いま起きている状況は、この国における食料不安の範囲や規模、広がり、そして格差の影響をさらけ出している。最近のインフレだけに留まらず、賃金が生活費の上昇に追いついていない」とマッキーCEOは言う。

かつてないほど緊急支援に頼る人が増加

問題を複雑にしている要因が1つある。政府による食料支援の問題が、国債発行残高の上限を引き上げるべきか否かという政界での議論に巻き込まれてしまっているのだ。

連邦議会の共和党議員らは、ケビン・マッカーシー下院議長の言葉によれば「(バイデン大統領による)無分別な支出」に歯止めをかける対策パッケージの1つとして、食料支援の制限を提案している。

バイデン大統領は「低所得の米国民に悪影響をもたらす」として共和党の提案を一蹴した。飢餓対策の啓発活動家はロイターの取材に対し、SNAPの利用をさらに困難にする政策が導入されれば、フードバンクその他の緊急食料支援団体にはさらに負担がかかると話している。

米国における困窮者向け食料支援として圧倒的に規模が大きいのは、連邦政府の制度であるSNAPだ。配給される食事の回数で見れば、フードバンクや食料配給所は約10分の1を占めるにすぎないが、それでもSNAPに続いて2番目に大きい存在であり、社会的なセーフティーネットの重要な柱となっている。

コロナ禍への一時的対応としてのSNAP拡大が終了した今、ジョージア州やコロラド州、バージニア州など各地のフードバンクから、支援への需要が増大しているとの声が上がっている。

オハイオ州中部の20郡で活動する「フード・コレクティブ」は今年1―3月、食料配給所を訪れる世帯数が前年同期の約27万戸から39万戸程度へ45%近く増えたと報告している。

「未知の領域に入っている」と語るのは同慈善団体の広報を担当するマイク・ホクロン氏。「家計が苦しくなり、飢えをしのぐために緊急支援に頼る人がかつてないほど増えている」

ヒューストン・フードバンクのブライアン・グリーンCEOは1988年からこの仕事に就いているが、これまでも需要は供給を上回っており、経年比較は難しいと話す。支援食料の量では全米最大という同フードバンクで配布する食料は、昨年より今年の方が少ないが、その原因は現金や食料の寄付が減少しているからだという。

「コロナ禍の頃と同じくらいの食料が入ってくれば、配布できるのだが」とグリーンCEOは言う。

バージニア州のブルーリッジ・エリア・フードバンクが供給元となっている食料配給所も、最近の利用者急増を報告している。「ダレス・サウス・フードパントリー」では、2021年4月には週109世帯に食料を配布していた。2022年4月は147世帯、今月は183世帯に増えている。

試写会
カンヌ国際映画祭受賞作『聖なるイチジクの種』独占試写会 50名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中