世界最大級の「CO2排出源」、中国の鉄鋼業界が挑むグリーン水素による「脱炭素」革命
CHINA'S GREEN STEEL
「CO2排出源」が業界を挙げて対策に乗り出した(宝武鋼鉄の工場) QILAI SHENーBLOOMBERG/GETTY IMAGES
<グリーン水素で排出ゼロへ。世界全体の温暖化対策のカギを握る「大気汚染大国」で新たな試みが進行中>
中国は2月6日付の「2022年中国気候公報」で昨年の平均気温が観測史上2番目に高く、春、夏、秋の気温は過去最高だったと発表した。
世界最大の二酸化炭素(CO2)排出国である中国がカーボン・フットプリント(CO2排出量)を削減しない限り、地球温暖化は緩和できない。なかでも脱炭素化のカギを握るのは製鉄部門。製鉄部門の年間排出量は中国全体の17%と電力部門に次いで2番目に多い。鉄鋼世界最大手の中国宝武鋼鉄集団の20年のCO2排出量はパキスタン全体の排出量を上回った。
中国の鉄鋼業界が排出量を削減するための選択肢は主に3つ。1つは従来の石炭ベースの溶鉱炉から、再生可能エネルギー由来の電力と高品質の鉄くずを利用するアーク炉(EAF)に切り替える方法。環境に優しいが普及するほど鉄くずの需要が増し、生産コストが上昇するのが難点だ。
2つ目は既存の製鉄所に炭素回収装置を設置する方法だ。ただし製鉄所の炭素回収プロジェクトはまだ実証段階で、コストを下げて大規模な解決策にするには引き続き投資が必要だろう。
3つ目は製造過程でCO2などを排出しない「グリーン水素」技術の採用だ。まだ初期段階で、生産は再生可能エネルギー由来の電力の供給に左右される。生産拡大にはそうした電力価格を引き続き下げていく必要があるが、産業化できれば製鉄業界のCO2排出削減に重要な役割を果たし得る。
政府の後押しが不可欠
現に世界トップクラスの中国鉄鋼メーカーの半数が既に生産の脱炭素化を目指して水素技術に投資している。宝武鋼鉄は昨年2月15日、広東省湛江でグリーン水素を燃料とするアーク炉の建設を開始。今年末の完成予定で、同社初のゼロカーボン・アーク炉となる。
同社は21年11月、低炭素技術の産業化を目指して技術協力を進める企業アライアンスの発足と、水素を含む低炭素技術の基礎研究に年間最大3500万元(約500万ドル)を投じる基金の設立を発表。アライアンスにはアルセロール・ミタル、首鋼集団、BHPグループ、リオ・ティントなど15カ国から鉄鋼・鉱業大手60社以上が参加する。
鞍山鋼鉄集団も昨年、グリーン水素ベースの画期的な製鉄技術を発表。河北鋼鉄集団は、再生可能エネルギーモデル地区に指定されている河北省張家口で世界初の水素エネルギーによる製鉄技術の実証実験に向けた整備を開始した。