最新記事
SDGs

ZARAも参入、中古品がむしろオシャレな時代に──消費者の価値観の変化と新ビジネスモデルとは?

THE OLD IS NEW AGAIN

2023年3月24日(金)14時27分
テレサ・サダバ(ナバーラ大学ISEMファッション・ビジネススクール学部長)
古着倉庫

ベルリンの古着倉庫 GREGOR FISCHERーPICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES

<エコなビジネスモデルの台頭で盛り上がる中古品市場に、衣料ブランド「ザラ」も進出。今の消費者にとって、中古品を買うことは「エンターテインメント」>

昨年11月、世界的に展開しているスペインの人気ファッションチェーンのZARA(ザラ)が、中古品市場に進出した。

専用のプラットフォーム「ザラ・プレ・オウンド」で、ザラで購入した衣料品の再販、修繕、もしくは赤十字への寄付を選べるサービスがイギリスで試験的に始まったのだ。

これは、親会社インディテックスのサステナビリティー(持続可能性)への取り組みの一環でもある。多くの国で大繁盛している中古品市場に、ファストファッション業界も参入しつつある。

18世紀から19世紀にかけて拡大した中古品取引は、20世紀に下火になってマイナスのイメージが付いたが、近年は復活を遂げている。

米中古品取引大手で古着のEC(電子商取引)サイトを運営するスレッドアップによると、世界の中古品市場は2022年に24%成長し、26年には現在の倍の820億ドルになる見込みだ。高級品の中古品市場は240億ドル規模。成長のペースは12%で、1次市場の3%の4倍に達している。

成長の要因は、経済危機や消費者の価格意識の高まりだけではない。もっと複雑な何かが起きているのだ。

買い手が売り手になる

アメリカでは、新しいライフスタイルとしてミニマリズムが注目を集めている。人々は買う量を減らし、より創造的な選択を求めている。

消費者がコストを意識するのは、節約のためだけではない。彼らにとって重要なのは、値段(適切なコストという客観的な問題)とその価値(購入者が何を重視するかという主観的な問題)であり、判断を下すのは自分自身だ。

衣料品をリサイクルに出したり、修繕して新しい命を吹き込むという考えは、特に北米のような超消費市場では、人々の考え方や態度の変化を意味する。そうした消費者の価値観の革命に乗って、サステナビリティーの牽引役になったブランドもある。

アウトドア衣料のパタゴニアは1985年から年間売上高の1%を環境保護活動に寄付してきたが、昨秋に全株式を気候変動対策団体などに譲渡すると発表した。

いわば、ブランド全体を気候変動との戦いに寄付するのだ。ミニマリストの消費者にとって、社会的・環境的インパクトは重要な購買変数になる。

もっとも、多くの消費者にとって、中古品を買うことはエンターテインメントでもある。彼らは洋服を吟味して、掘り出し物やお買い得品を探すことを楽しんでおり、特に若い世代は買い物にギャンブルの要素を感じている。

先のスレッドアップのリポートによると、ミレニアル世代とZ世代の消費者の62%が、新品の前に中古品を探すと答えている。そこではエンターテインメントの要素が、若者の間で高まっている新しい価値観、すなわち、嘘偽りのない自分と自分らしさの追求に結び付いている。

若い世代の消費者にとって、中古品はノスタルジーとも結び付く。例えば1980年代が舞台のドラマなどでひと昔前の美学に触発されて、自分が経験したことのない時代にノスタルジーを感じるのだ。

230321p34_ZRA_02.jpg

リユースやリサイクルの「もったいない」から、ビンテージなどの「古いのがおしゃれ」に消費者の意識が変化している。ザラ・プレ・オウンドのサイト(写真) RESELL.ZARA.COM

デジタルの世界ではワジャポップ、エッツィ、ビンテッド、メルカリなどの再販プラットフォームが相次いで登場し、交流や交換のためのさまざまなモデルが出現している。

フェイスブックも16年に独自の再販プラットフォームを立ち上げた。こうしたマーケットプレイスでは消費者が売り手にもなることで、利益を得られる回路に参加するという共同経済の場が生まれている。

当然、ブランドもこの現象に反応して、独自のポータルサイトを作っている。常に値崩れする製品をうまく管理しながら、トレンドに乗ろうというわけだ。

一方、ウォルマートのような大手小売りチェーンは、中古品専用の部門を構えて市場を支配している。さらに、さまざまな中古品ビジネスを展開する店舗も存在する。

例えば、仕入れなどを寄付に頼る慈善目的の非営利の店舗もある。なかでも米最大手のグッドウィル・インダストリーズは北米で3300店以上の実店舗を構え、12万人が働いている。最近はオンライン販売も始めた。

ビンテージショップ(ファッション界では今や20世紀のものがビンテージだ)では、昔の商品の希少性と唯一無二という要素のおかげで、消費者は少々割高な価格も気にしない。

在庫管理や品質の問題も

服の「賞味期限」や、消費者のサイズの変化もニッチな要素になる。短期間しか着ることのできない子供服が、古着の分野でも特に競争が激しいのは当然だろう。

また、商品が店頭に並んでいる時間の長さで価格を決める店や、他店の在庫処分品で仕入れた服が多い店もある。

ただし、中古品販売のビジネスモデルが多様化して可能性が広がり、市場も拡大するにつれて、在庫管理や保管スペース不足などの問題が生じている。

入荷した衣料品は再販できる状態のものばかりではなく、仕分けには多くの人手が必要だ。ニューヨーク・タイムズ紙は最近の記事で、中古品店の商品の質の低下を警告している。

中古品市場で売れなかった衣料品はどうなるのかという問題もある。その多くは国外の市場に流れ、当初は無償で寄付されたものが商業的な回路に乗る。

こうした問題はあるが、消費者の新しいニーズに対応するために、中古品市場は注目のトレンドになるだろう。今の時代、中古品を身に着けることは、むしろおしゃれなくらいだ。

The Conversation

Teresa Sádaba, Dean at ISEM Fashion Business School, Universidad de Navarra

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係

ワールド

シリア担当の米外交官が突然解任、クルド系武装組織巡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中