「産業革命以来の大変革」は間近──電力会社が挑戦する「水素社会」
THE PROMISE OF HYDROGEN
PETMAL/ISTOCK
<ナショナル・グリッド社などの普及に向けた実証試験が進み、脱炭素の切り札として期待されるグリーン水素>
世界は今まさに地球規模のエネルギー転換の時代を迎えようとしている。19世紀の産業革命以来の大変革が間近に迫っているのだ。
今も石油、天然ガス、石炭が世界の1次エネルギー消費の77%超を占めているが、世界的な潮流となった脱炭素の流れはもはや止められない。
太陽光や風力などの自然エネルギーは再生可能だが、気候に左右されるため供給が安定しない。そこが化石燃料に代わる代替エネルギーとしてネックになっているが、今ではこの問題を解決するエネルギー貯蔵技術が次々に生まれている。
その代表格が太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使って製造される「グリーン水素」だ。
アメリカ各地では既に水素で走るトラックや乗用車、バスが試験的に導入されている。米エネルギー省(DOE)は今後10年をめどに水素を価格競争力のある新エネルギーに仕立てる計画で研究開発を後押ししている。水素が主流のエネルギーとして活用される「水素社会」の実現には何が必要なのか。
水素は宇宙に最も豊富にある元素だが、地球上では単体ではほとんど存在しない。酸素と結び付いて水(H2O)になるなど、通常は他の元素と結合している。結合を解いて水素を抽出するにはエネルギーが必要で、再び結合するときにこのエネルギーが放出される。
重量1キロ当たりの水素のエネルギーはガソリンの3倍。ただし、体積エネルギー密度は低いため、エネルギー源として利用するには圧縮するか液化して使うことになる。
「水素を燃料として利用すると、酸素と結合して水になり、二酸化炭素(CO2)は放出されない」と、英電力会社ナショナル・グリッドのモリー・ギルソン広報部長は説明する。「水素は炭素を含まないので、エネルギー源として利用しても一酸化炭素(CO)もCO2も出さず、水蒸気が出るだけだ」
社会の受容が普及の鍵
水素の中でも、いま最も注目されているのは、再生可能なエネルギーを使って水を電気分解して製造されたグリーン水素だ。太陽光や風力などの自然エネルギーでグリーン水素を製造して貯蔵しておけば、燃料としても使えるし、日照不足や風が弱いときに発電に利用できる。これがグリーン水素の大きなメリットだと、ギルソンは言う。
グリーン水素のほかにも、製造方法によって「グレー水素」、「ブルー水素」などと呼ばれる水素がある。