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IQより重要なEQとは? 人生の勝負を決めるのは「社会に出て活躍する力」だ

2022年11月1日(火)16時55分
永守重信(日本電産 代表取締役会長) *PRESIDENT Onlineからの転載

2003年に精密小型モーター分野で強力なライバル会社が2期連続で赤字を出し、倒産寸前に陥ったときのことだ。

私はその会社を買収することにした。その会社には不良資産が多かったため、社内には反対する者も多かったが、製品は非常に優れており、従業員たちの技術力も高いことがよくわかっていたからだ。

社員の意識改革で赤字287億円の企業が、1年で150億円の黒字に

しかしコスト意識に欠けている体質があった。

そこで私は、毎週2泊3日をかけてその会社に通い、日本電産流のコスト管理法を徹底して教育し、従業員に危機感とやる気を持たせるよう、私なりのメッセージを伝え続けた。

すると翌年、黒字転換した。この間、一人の人間も解雇していない。

同じ従業員たちが同じ設備をそのまま使い、景気もそれほど大きく変わっていないのに、前年に287億円もあった赤字を、わずか1年で150億円の黒字へと変えることができたのである。

何が変わったのか。それは、従業員の意識である。

成果を生む根源は「従業員のやる気」

従業員教育でもっとも大切なのは、彼ら自身のやる気を引き出すことだ。

そのために、私は何度でも現地の会社に行き、社員と弁当をつつきながらの懇談会を開き、熱心に話をする。幹部社員は会食に連れ出す。

そこで、「生産性を上げる永守流の経営をすれば、業績は回復すること」、「あげた利益は、会社の成長のための再投資に使うこと」、「会社が成長したら、従業員に利益を還元すること」などを根気よく伝えている。

こうして永守流経営の考え方を理解してもらえる土壌をつくり、社員の意識を変えていくのだ。

最初のうち、従業員たちはそれを信じない。半信半疑の眼で私の話を聞いている。しかし次第に業績が回復していくと私の話を信じるようになっていく。それと同時に、彼らのやる気もぐんぐん出てきて大きな成果が出始めるのだ。

海外の企業を買収するときも同じである。基本的に経営者や従業員は変えない。いきなり文化や習慣の違う日本人の経営者を送り込んでも、現地の人の心はつかめないどころか離れてしまうからだ。それより私の信念や方法論を理解してもらい、やる気を出してもらうほうが大切だ。

情熱と教育がすべてを決める

このように、結局は情熱と教育がすべてを決めるというのが、これまで50年間会社経営をしてきた私の実感である。

books20221031.jpg日本電産を創業したときも、私を含めて社員は皆、有名大学や一流大学の出身ではなかった。しかしお金も知名度も実績もないなかで我々は大企業の2倍働くと決め、会社の理念の一つである「知的ハードワーキング」を必死に続けた結果、世界一のモーターメーカーに成長することができたのだ。会社を大きくしてきた創業メンバーは皆、我が社の大幹部になった。

また、これまで画期的な開発をしてきたからこそ世界一のモーターメーカーになれたわけだが、その開発をしてきた社員たちだって一流大学出身というわけではない。

IQよりEQの高い社員たちが懸命に働き、持てる潜在能力を大いに発揮したことが、大きな飛躍につながったと信じている。

人間の潜在能力を生かせるかどうかは、このEQを伸ばせるかどうかにかかっているのである。

話を受験勉強に戻そう。皆さんのEQを高めるにはどうすれば良いのだろうか。それには大きい夢を持って、将来こうなりたい、この学部に行きたい、この学問を学びたいという強い意志を持つことだと思う。そのことは拙著『大学で何を学ぶか』で詳しく述べることにしたい。


永守重信(ながもり・しげのぶ)

日本電産 代表取締役会長
1944年、京都府生まれ。6人兄弟の末っ子。京都市立洛陽工業高等学校を卒業後、職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)電気科を首席で卒業。1973年、28歳で日本電産を創業し、代表取締役に就任。同社を世界シェアトップを誇るモーターメーカーに育てた。また、企業のM&Aで業績を回復させた会社は60社を超える。著書に『成しとげる力』(サンマーク出版)、『人を動かす人になれ!』(三笠書房)、『大学で何を学ぶか』(小学館新書)など。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
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