最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナ男性が大挙帰国、中欧諸国が深刻な労働者不足に

2022年7月31日(日)09時45分
物流倉庫で働くウクライナからの避難民女性

ポーランドやチェコなど比較的工業化が進んだ中欧諸国では、ウクライナ人労働者が建設現場や工場の組み立てラインなどブルーカラー職場を支える重要な働き手になっている。写真は14日、ゴジェフヴィエルコポルスキの物流倉庫で働くウクライナからの避難民女性(2022年 ロイター/Fanny Brodersen)

ポーランドやチェコなど比較的工業化が進んだ中欧諸国では、ウクライナ人労働者が建設現場や工場の組み立てラインなどブルーカラー職場を支える重要な働き手になっている。しかし2月のロシアによるウクライナ侵攻後、大量のウクライナ人男性労働者が戦闘に加わろうと帰国したため、こうした職場では深刻な人手不足が起きている。

企業は女性をブルーカラー職場に配置するための訓練コースを設けたり、アジアの労働者を採用するなど、人材の穴埋めに知恵を絞っている。

ロイターはポーランドとチェコで企業幹部や求人担当者、業界団体、エコノミストなど14人を取材。ウクライナ人労働者の離職が製造業や建設業でコスト増や作業の遅れを引き起こしている様子が分かってきた。

高賃金やビザ要件の緩和が呼び水となり、中欧諸国にはこの10年間にウクライナから大量の労働者が流入。建設、自動車、重工業など、国内の労働者にとっては賃金水準が不十分な職種で雇用を満たしてきた。

中欧ではロシアのウクライナ侵攻前に、ウクライナ人が最大の外国人労働者グループになっていた。業界団体によると、ポーランドとチェコはウクライナ人労働者をそれぞれ60万人前後、20万人余り受け入れていた。

ポーランドの業界団体によると、ウクライナでの戦争勃発後にポーランドを離れたウクライナ人労働者は約15万人で、その大半が男性だ。

ポーランドの路面電車・鉄道建設会社ZUEグループの最高経営責任者(CEO)、ウィスラフ・ノヴァク氏は、下請け業者の1つが最近、線路敷設関連の作業を完了できなかったのは30人のウクライナ人労働者がほぼ全員離職してしまったからだと明かした。

「多くの企業が労働者の大量流出に見舞われ、さまざまな建設現場で大規模な人手探しが行われている」

欧州中央銀行(ECB)は6月、ウクライナ難民の流入がユーロ圏の労働力不足を緩和するとの見通しを示した。しかしユーロ圏以外の欧州工業国では逆のことが起きているようだ。

こうした国に到着した何十万人ものウクライナ難民は女性と子ども中心で、人手が不足しているブルーカラー職を埋めるのは容易ではない。求職があるのは建設、製造、鋳造など肉体的にきつい分野の仕事が多く、こうした職場は女性労働者が運べる重量が法的に制限されている。

チェコ産業連盟のラデク・スピカー副会長は「ウクライナ人労働者の離職で企業は問題が一段と悪化している」と話した。「企業は取引先の需要をすべて満たすことが不可能になっている。納期を遅らせたり、違約金を支払ったりしているのが実態だ」

埋まらぬ求人

チェコは国内総生産(GDP)に占める工業セクターの比率が30%と、欧州連合(EU)加盟国中でトップクラス。これに次ぐのが25%のポーランド。

ロシアのウクライナ侵攻前、ドイツに拠点を置く人材紹介会社ホフマン・ペルソナルは3月から6月にかけて1000人余りのウクライナ人をチェコに受け入れる予定だった。

ホフマンのチェコ部門のマネージングディレクター、ガブリエラ・フルバコワ氏によると、ウクライナ人労働者を当てにしていた企業は今、この穴を埋めるのに苦労している。チェコの失業率は3.1%と、EU加盟国で最低水準。フルバコワ氏は「この問題が即座に解消せず、外国人労働者の採用機会が改善しなければ、特に製造業に大きな影響が出るだろう」と語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身も認める「大きな胸」解放にファン歓喜 哺乳瓶で際どいショットも
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 7
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中