社会をよりよく変えるために「権力」を使おう──その前に3つの誤解とは?
POWER, FOR ALL
ハーバード大学ビジネススクールをはじめ世界のMBAで権力の授業が人気 BROOKS KRAFT LLCーCORBIS/GETTY IMAGES
<国際社会から非難を浴びても他国への侵攻をやめない独裁者は、どのように「権力」を握ったのか? 実は「権力」は誰も所有することができないが、4つの戦略で誰でも使いこなすことができる。ハーバード・ビジネススクール人気講座より>
国際社会の批判を受けても独裁的な政権は侵攻をやめず、各国で分断をあおる政治が台頭し、先進国で経済格差が拡大するなか、誰しもこんな疑問が浮かぶ──なぜ強大な力を握る者がいるのか。彼らの支配は続くのか。力関係を覆すことはできないのか。
今、世界のビジネスパーソンがこぞって学び、名門ビジネススクールで人気を集めているのが、権力(パワー)の授業だ。
長年このテーマで教鞭を執ってきたハーバード大学ビジネススクール教授のジュリー・バッティラーナとトロント大学ロットマン経営大学院教授のティチアナ・カシアロは、講義録を話題の新刊『ハーバード大学MBA発 世界を変える「権力」の授業』(邦訳・CCCメディアハウス)にまとめた。
パワーとは国家権力や経営トップなど一部の人だけのものではない。他者に影響を及ぼし、社会を変えられるパワーの仕組みを知れば、ビジネスから人付き合いまで多くの場面で、誰もがうまく使いこなせるはずだ。以下に本書の抜粋を紹介する。
パワーをめぐる誤解
毎年秋になると、ハーバード大学とトロント大学で筆者らの授業を受講する学生から、同じような質問が寄せられる。
パワーを手に入れ、それを維持するコツは? 昇進を果たしたのにパワーを実感できないのはなぜか? どうしたら周囲の人を変えられるのだろう? パワハラ上司に抵抗できない理由は? 自分がパワーを手にしたとき、それを乱用していないか確認する方法は?
多くの人に共通しているのは、パワーをめぐる根深い誤解だ。なかでも特に3種類の誤解が、パワーを正しく理解し、最終的にその力を適切に行使するという目標達成の妨げになっている。
1つ目の誤解は「パワーは所有できるものであり、一部の恵まれた人にはパワーを獲得する特殊能力が備わっている」という信念だ。この理屈でいけば、そうした特殊能力を有しているか、何らかの方法でその力を獲得できた人だけがパワーを保持できることになる。
だが、あなた自身の人間関係を振り返ってみれば、自分の性質や能力は変わらないのに、思いどおりに動かしやすい相手とそうでもない相手がいることに気付くのではないか。
2つ目の誤解は「パワーは地位によって決まり、国王や女王、大統領や将校、取締役やCEO、富裕層や有名人のために用意されたものだ」という発想だ。職権や階級をパワーと同一視する勘違いは極めてよくある誤解であり、われわれは毎年、初回の授業でこの問題にぶつかる。