最新記事

株の基礎知識

貿易赤字と経常赤字で「悪い円安」へ 日本から空前の規模の「家計の国外逃亡」が起こる可能性も

2022年5月11日(水)16時50分
山下耕太郎 ※かぶまどより転載

日本は長い間、経常収支が黒字でしたが、黒字を牽引していた貿易収支は2000年代以降に縮小し、2021年度は赤字に転落しました。そして、2005年以降、配当や利子のやりとりを示す「第一次所得収支」が貿易黒字を上回り、投資所得が日本の経常収支黒字を支える傾向が強まっています。

貿易収支では、輸入の増加が赤字に直結します。日本は天然ガスや原油などのエネルギー資源の多くを海外に依存しているので、資源価格の高騰は貿易収支を縮小させ、経常収支を圧迫する要因になるのです。

日本経済新聞社では、為替レートが1ドル=120円、原油価格が1バレル=130ドルの場合、2022年度の日本の経常収支赤字は16兆円となると試算しています。貿易収支だけでなく、経常収支も赤字になる可能性が高まっているのです。

(参考記事)原油高騰で株価はどうなる? インフレ時代の投資戦略を考える

赤字の進行で「悪い円安」へ

天然ガスや原油のほとんどを輸入に頼っている日本にとって、原油価格の高騰が経常収支に与える影響は大きくなります。そして、原油価格の上昇は、GDPの5割以上を占める個人消費だけでなく、原油が生産活動などに不可欠な企業の設備投資も冷え込ませるのです。

その結果、日本株にもマイナスの影響となります。

経常収支のうち、貿易収支の赤字は円安の進行に伴って拡大します。これまでの円高局面ですでに国内企業の生産拠点は海外に移転しており、輸出の増加により貿易黒字が増えるという構成は変化しています。

長引くデフレと景気低迷によって、日本経済の構造は大きく変化しました。世界的なインフレによる大幅な円安は輸入物価を押し上げ、日本人の消費マインドを圧迫する「悪い円安」になるのです。

家計の海外資産への移動が起こる?

インフレに伴う「悪い円安」によって、個人の金融資産が国外に逃避する「家計のキャピタルフライト(資本逃避)」が起きる可能性があります。

日本銀行が2021年10月17日に発表した2021年10~12月期の資金循環統計速報によると、2021年12月末の家計金融資産は前年同期比4.5%増の2,023兆円となり、初めて2,000兆円の大台を突破しました。

ただし、現預金が1,092兆円と約半分を占めています。国内の金融機関ではほとんど金利がつかず、インフレによって資産が目減りする恐れもあります。そこで、外貨へ資産を移す人が増える可能性があります。もし、預貯金の10%が外貨資産に移るだけでも、100兆円規模の円売り要因となるのです。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中