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「58円の野菜ですら丁寧に包装」 日本の農家がやりがい搾取の沼にハマる根本問題

2022年2月7日(月)12時00分
野口憲一(民俗学者) *PRESIDENT Onlineからの転載

楽しみ半分の仕事で作った野菜であれば、安くても良いかもしれません。農業をしているだけで充分楽しいなら、わざわざ休みを取って旅行に行く必要もない。しかし、現代社会ではそうはいきません。農作物の価格が変わらなかったとしたら、一心不乱に働かなければ生活が成り立っていかないのです。

日本の300円のサラダの方がNYの15ドルのものより高品質

労働の苦労が価格で取り戻せるならまだいいでしょう。しかし、今や高品質な野菜のイメージが、デパートどころか激安スーパーでも受容されているのです。これは日本の農産物流通の特徴です。「安かろう悪かろう」どころか、「もってけ泥棒」のタダ同然で売られる激安キャベツにまで、最高品質が求められるのです。例えば普段100円で売られている小松菜が安売りで1束58円で売られていたとしても、ぐちゃぐちゃに袋詰めされていたら購入意欲が削がれるはずです。安売り大特価の場合でも、求められる品質は一緒なのです。

日本の農作物が、ヨーロッパやアメリカに比べて過剰包装だと言われる所以です。もし腑に落ちないようなら、アメリカやヨーロッパのスーパーなどをGoogle画像検索で見て、比較してみてください。日本のスーパーの様子とは明らかに異なることがお分かりになるはずです。

スーパーだけではありません。私が2019年にニューヨークにレンコンの営業に出向いた際、マンハッタンのグランド・セントラル駅近くにあるホテルの売店で買った15ドルのサラダボウルには、青虫が食べるようなゴソゴソのケールが入っていました。日本のコンビニで300円で購入できるサラダと比べて遥かに劣る品質です。物価の違いもあるので単純な比較はしにくいですが、その価格差はおよそ5倍。極めて高い品質基準を求められているのにもかかわらず、あくまでも安売りを続けてきたのが日本の農業なのです。

経費が高騰しても愛情とプライドを持って働く日本の農家

洗練された農作物を商品化するためには、相応の資材が必要です。農業資材は年々高騰しています。燃料はもちろん、箱代、運賃、包装用のビニール袋代など数え出したらきりがありません。商品価格に変わりがないままに、商品の品質、味や見た目を維持しなければならないので、資材が高くなれば利益はますます薄くなっていきます。

一方、生活のために必要な所得の下限には限度があります。食物を生産しているからと言って、お金がなくても生活できるわけではないのです。農産物の価格は、そう簡単には上がらない。ならどうするでしょうか。普通に考えれば、大量生産の方向に進むことになります。当然、生産目標などを考える必要も出てきます。

そうなったら、遊んでいるわけにはいきません。失敗は許されなくなる。客観的に見れば、それは自由意志を奪われた単なる「労働」でしょう。しかし悲しいかな、それでも農家は、その中に楽しみや自由意志を見出し、愛情とプライドを込めた農作物を栽培しようとする生き物なのです。それこそが日本社会における働き方の特徴であり、まさしく、やりがい搾取を生み出す構造そのものです。

それだけではありません。社会は、より狡猾に農家からのやりがい搾取を図っています。どういうことでしょうか?

「DASH村」が変えた日本の農業へのイメージ

一昔前の農業イメージと言えば、3K(きつい、汚い、危険)が当たり前でした。私の実感では、バブル崩壊後の1990年代くらいまでは、そんなイメージがほとんどだったと思います。

しかし2000年頃から、農村生活をノスタルジーと掛け合わせるような形で賛美するイメージが流れるようになりました。ある種のロマンチックな農業イメージです。具体的には、日本テレビ系列「ザ!鉄腕!DASH‼」の人気コーナーである「DASH村」や、TBS系列「金スマ」内の「金スマひとり農業」などをイメージしてください。

「DASH村」が始まったのがちょうど2000年です。いわゆる「失われた20年」の真っ最中。日本はデフレから抜け出せず、社会全体に行き詰まり感が漂っていました。所得は頭打ちどころかマイナス。ストレス解消をしようと思っても先立つものがなく、海外旅行などもおいそれとは行けない。そのような時に注目されたのが、国内での地方への観光や農業でした。

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