人間には簡単だが機械には苦手なこと、その力を育むものこそ「数学」だ
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<どれだけ科学が進歩しても機械が苦手とし、いまだ人間にかなわずにいる能力こそ、数学によって育まれる「抽象性」の力だった>
数学とは、見えないものを見ようとする試みである。大切であるけれども理解できないことをなんとかして理解しようとする試みである――これは、『見えないときに、見る力。 視点が変わる打開の思考法』(CCCメディアハウス)の、著者・谷川祐基氏の言葉だ。
前著『賢さをつくる 頭はよくなる。よくなりたければ。』(CCCメディアハウス)が好評の谷川氏によると「数学を学ぶ目的は抽象性を育てること」である。新刊『見えないときに、見る力。』では、「数学は問題解決能力である」とか「数学は論理的思考力を養う」といった、よく言われる数学という教科の存在意義に対して、新たな見解を投げかけた。
ではなぜ、抽象性を育てることがそんなに大事なのか? それは、この現実社会を生きていくうえで、ときに抽象性は論理を超えて人を動かし得るからだ。抽象性とは人を理解しようとするやさしさ、つまり、人が人たる能力につながるからだ。
人の仕事を奪うという文脈で取り上げられることが多いAIについても、抽象化力において人間を超えるレベルには達していない。『見えないときに、見る力』の内容を2回にわたって抜粋紹介する連載の後半では、AIと人の関係について紹介する。
連載第1回:算数嫌いな人たちに共通する「苦手な単元」にこそ、数学の神髄があった
◇ ◇ ◇
「AIなんかに負けへんで! と思ったら、抽象化力や」
――具体化のコンピュータと抽象化のAI
ピタゴラス(以下「ピ」): 最近、AIちゅうのが話題になっとるやろ?
環太(以下「環」): 技術の進歩は基本的に望ましいと思うんですけど、「AIに仕事が奪われる!」とか、「子どもの学力がAIに負ける!」とかネガティブにも語られますね。
ピ: ところで、AIの定義って、いったい何や? ただのコンピュータ・プログラムとAIの違いってなんやねん?
環: AIとはArtificial Intelligenceの略。日本語に訳せば「人工知能」ですけど、指し示すものの幅が広すぎて、しっかりした定義は難しいですよね......。将棋のプログラムもAIだし、ドラえもんや鉄腕アトムみたいな、会話ができるロボットをイメージする人もいます。ドラえもんみたいなAIは、まだできていないですね。
ピ: それを、わしがズドンと定義してやろうちゅうわけや。AIとは何なのか、スッキリわかるで。かっこいいやろ?
環: でも、AIって数学とあんまり関係なくないですか?
ピ: それが関係あるんやな~。
̶ ピタゴラスは、またいつものニヤニヤ顔をしている。
『見えないときに、見る力。
視点が変わる打開の思考法』
谷川 祐基 (著)
CCCメディアハウス
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