最新記事

キャリア

「このままでは世界と戦えない」 社員を博士課程に送り込む島津製作所、真の狙いは?

2021年11月2日(火)18時28分
辻村洋子 *PRESIDENT Onlineからの転載

しかし働くうちに、修士課程で研究したDNAや核酸などのバイオサイエンスと、仕事現場で学んだ質量分析の知見を融合したいという思いがふくらんだ。

「バイオサイエンス+機器分析のプロになりたい、そのために一度職場を離れて学問としてしっかり学びたいと思うようになったんです」(林田さん)

当時はまだREACHラボプロジェクトがスタートする前。林田さんもまた飯田さんと同じように、学ぶための道を模索した。博士号をとりたい、でもどうすればと悩み、「母校の大学院に戻ろうかと思っている」と上司に相談もした。

そこへ同プロジェクトの話が持ち上がり、上司の推薦によって第1号に決定。現在は会社を離れ、大阪大学のREACHラボで、核酸医薬の品質管理工程における分析手法を研究している。

研究室に入って約半年が経った今、林田さんは「学生時代にいたラボに比べて教授陣も学生数も多く、いろんな研究が同時に、すごいスピードで進んでいる」と驚きを語る。議論のレベルも想像以上に高く、毎日が刺激的だという。今後3年は学問に集中し、復社後には研究成果を生かして核酸の分野で新たな価値をつくり出していくつもりだ。

男女問わず「意欲ある若手」を派遣していく

林田さんに続く人材についても、社内公募を準備している。選抜基準は男女関係なく「意欲ある若手」で、今後5年間で10名ほどの派遣を目指す。研究テーマは医薬だけでなく、AIや情報科学、人文系、さらには複数の学問領域にまたがる学際分野にも広げていく予定だ。

飯田さんは「グローバルに活躍できる高度人材を育て、まだ答えのない課題に対して正解を出していくこと。それが当社や日本の成長につながるはず」と力を込める。

島津製作所と大阪大学の挑戦はまだまだ続いていく。日本は科学技術大国と言われるが、グローバルに戦える技術者や研究者を今後どう育成していくか、悩んでいる大学や企業は多い。REACHラボプロジェクトは、そうした課題に対するひとつの解になり得るのではないだろうか。

※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー

ビジネス

NY外為市場=円急落、日銀が追加利上げ明確に示さず

ビジネス

米国株式市場=続伸、ハイテク株高が消費関連の下落を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中