最新記事

中国撤退

中国進出の日本企業は、極めて苦しい立場に立たされている

THE XI SQUEEZE ON CEOS

2021年10月12日(火)18時15分
ビル・パウエル(ワシントン)

magSR20211012thexisqueezeonceos-3.jpg

米バイデン政権が対中制裁に踏み切るかどうか注目が集まる DREW ANGERER/GETTY IMAGES

この状況は、ほとんどの企業のCEOが想像もしていなかった。多くの企業は、莫大な時間と資金を投じて中国ビジネスを立ち上げてきた。

フォルクスワーゲン(VW)、トヨタ、ゼネラル・モーターズ(GM)といった自動車メーカーは、合弁会社を通じて中国で自動車を生産している。現在、中国はGMにとって世界最大の市場になっている。半導体大手のインテルも25億ドルを投じて、中国北東部の大連にコンピューターチップの工場を建設した。

中国側が発した明確な警告

中国政府は、対中ビジネスを行おうとする企業に圧力をかけている。

中国の外交トップである楊潔篪(ヤン・チエチー)共産党政治局員は2月、アメリカのビジネス関係者や元政府関係者の会合でビデオ演説を行った際、しっかりクギを刺した――中国は今も外国企業を歓迎しているが、チベット、香港、新疆、台湾などの問題は越えてはならない「レッドライン」だ、と。

「中国政府のメッセージは誤解のしようがない。中国でビジネスをしたければ、アメリカ的価値観は捨てよ、というわけだ」と、トランプ前政権で国家安全保障会議(NSC)のアジア上級部長を務めたマット・ポティンガーは3月の講演で述べている。

同様のメッセージはアメリカの同盟国にも伝わっている。摩擦の激化に伴い、多くの多国籍企業がビジネスに支障をきたしている。

例えば、スウェーデンの通信機器大手エリクソンは7月、中国での売り上げが激減し、向こう数カ月間で中国における市場シェアが急激に落ち込む可能性が高いと発表した。

なぜそんなことが起きたのか。スウェーデン政府は2020年10月、次世代通信規格「5G」のネットワーク構築から中国の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)と中興通訊(ZTE)を排除すると決めたのだ。

業種を問わず、中国でのビジネスに乗り出している企業は、地政学的環境が悪化すれば、これまで中国でビジネスを行うために費やしてきた資金と労力が全て水の泡になる可能性があると痛感している。

日本の飲料大手サントリーホールディングスの新浪剛史社長は、本誌のインタビューでこう語っている。「中国の生産施設を拡張すべきか判断しなくてはならない。当局に没収される可能性があることを承知の上で、さらに投資すべきなのか」

「そのリスクを取るべきなのか、取るべきでないのか。取るとして、どの程度のリスクを取るのか。100億円規模の投資は見送ったほうがいいかもしれない。では50億円なら? これはありかもしれない。どのくらいまでなら没収されても許容できるかを判断する必要がある」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中