EVシフトの盲点とは? トヨタが「水素車」に固執するこれだけの訳

2021年6月11日(金)15時55分
前田 雄大 *PRESIDENT Onlineからの転載

水素を原料とするFCシステムは長距離の航続距離の実現が可能であり、かつ、水素の充電は3分もあればフル充填(じゅうてん)が可能である利点がある。

そこでトヨタがまず着目したのが、長距離輸送トラックだ。商用トラックはエネルギー需要量が乗用車よりも多いため、水素需要創出にはもってこいの車両である。すでに北米では日野自動車と提携してFCシステムを搭載した大型トラックの共同開発を行っており、中国でも現地自動車メーカーと提携し、FCトラックの導入準備を進めている。

同様に長距離輸送を前提とする船舶や鉄道、バスへのFCシステム導入も視野に入れ、そこでの水素需要創出もトヨタは虎視眈々(たんたん)と狙っている。

さらに、国内企業と連携し、産業用の定置式FC発電機を共同開発も進めている。工場等の非常用ディーゼル発電機の置き換えや、港湾での荷役機械、停泊船舶への電力供給などを用途として想定しているとのことで、輸送セクターにとらわれずに貪欲に水素需要の創出に取り組んでいる。

トヨタが狙った展開がようやく訪れつつある

トヨタがFCV販売で苦戦する中、世界各国は水素に着目をしてこなかった。しかし、再エネのコストが劇的に低下を見せ始めた2019年ころより、欧州から風向きが変わり始めた。

2020年7月には欧州委員会が水素戦略を発表し、巨額の資金を投じる考えを示している。また、世界最大の大型トラック市場を有する中国では、政府が自動車の電動化の文脈で、トラックなどの商用車についてFCVの適用に言及。アメリカも政権の施策パッケージの中でグリーン水素の利活用に触れている。

そうした水素利活用の方向性は、先般、開催された先進7カ国(G7)環境・気候大臣会合においても確認された。成果文書では、水素の重要性と商業規模での水素の推進に言及がされたほか、将来の国際的な水素市場の発展を実現すべく努力という形で記載された。

いま、水素について追い風が吹いている。まさに、トヨタが狙った展開がようやく訪れつつある状況ではないか。

「水素は地球上で最も豊富な元素」という重要な事実

振り返ればプリウスを最初投入したときにも数年は泣かず飛ばずの時期があった。しかし、トヨタの長期展望がはまって今はヒットしている。同様に水素についても、トヨタは思い描いた戦略を着々と進め、その狙いに国際社会がようやくはまり始めた。

脱炭素化の進展がトヨタの想像を上回って到来しているのも事実だろう。蓄電池の想像以上の進化、テスラをはじめとするEV新勢力の台頭、欧州の周到な自動車産業復権の狙い等々、トヨタとして加味をしなければならない事項は多い。

特に、これから本腰を入れるEVに関しては、後発となったのは間違いのない事実だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

IEA、最大規模の石油備蓄放出勧告へ 計4億バレル

ワールド

ホルムズ海峡で3隻に飛翔体直撃、日本船籍コンテナ船

ワールド

イラン、米・イスラエル関連の域内経済・銀行拠点をを

ワールド

市場変動が経済への衝撃増幅も、さまざまなシナリオ検
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開された皇太子夫妻の写真が話題に
  • 4
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 5
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 6
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 7
    「一日中見てられる...」元プロゴルファー女性の「目…
  • 8
    人間ダンサーを連れて「圧巻のパフォーマンス」...こ…
  • 9
    イランがドバイ国際空港にドローン攻撃...爆発の瞬間…
  • 10
    ホルムズ海峡封鎖、石油危機より怖い「肥料ショック」
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 4
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 5
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 6
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 10
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中