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「会社が従業員を守ってる!」 コロナ禍のJALやANAの対応に欧米が感動する理由とは

2021年3月8日(月)12時33分
谷本 真由美(著述家、元国連職員) *PRESIDENT Onlineからの転載

イギリスをはじめとする欧州やアメリカの航空会社は、新型コロナ危機の直後、従業員を数万人単位で解雇しました。パイロットや整備士もバッサリです。ひどい会社では、半数以上の従業員が解雇されました。

ところが日本の場合、2020年夏の時点ではJALもANAも従業員を解雇せず、ANAでは防護服を製造する仕事にクルーをあてがいました。この話題は欧州でも報道され、「なんと情があって、柔軟な対応なんだ!」と驚かれました。

いま、「従業員を守る」という日本式の経営が評価されています。日本に比べて転職のハードルが低く、雇用流動性がある欧州でも、やはり解雇はショックです。多くの人は住宅ローンやカードローンなどの借金だらけのなか、なんとか生活を切り盛りしていますし、貯蓄率も低いため、一旦解雇になったら生活が成り立ちません。イギリスだと失業手当は雀の涙で、中年以上だと次の仕事も簡単には見つかりません。

欧州で報道された「国民一律10万円」のニュース

日本では、イギリス政府が打ち出した「雇用されている人に対して最大で月2500ポンド(1ポンド135円として約33万7500円)までの賃金を保障する」という対策が話題になりましたが、実際はその人が「雇用中」であり、「一時解雇になった」という証明がなければ保障してもらえません。それを知ったうえで一時解雇にした企業もたくさんあります。さらに、解雇は一時的であったとしても、その後ふたたび雇用されるという保証もありません。

また、自営業なら経費を除いた年収が5万ポンド(約675万円)を超えれば、まったく保障をしてもらえません。だから企業から解雇をされず、一定の基準を満たした自営業者やフリーランスにも保障が与えられる日本の温情措置をうらやましく思うイギリス人が多いのです。

赤ん坊から受刑者、認知症のお年寄り、さらに日本に住んでいる外国人にまで、資産や収入の審査もせず、一律で10万円を配った国は日本だけです。他の国は収入が減少したことの証明審査や納税実績など、さまざまな制限を設けています。

ちなみに「国民一律10万円」のニュースは欧州でも報道されており、イギリス人で大学教員をしている私の家人や、友人たちは毎日「10万円! 10万円! ミスターアベはナイスガイ! 私は日本に移住したい!」と言っています。

アメリカでは病気やケガで破産する人も

アメリカやカナダは比較的寛容に給付金を配りましたが、その一方、日本ではありえないレベルの残酷かつドライな解雇もやっています。しかも、ウイルス検査は無料でも、治療は日本と違って有料なところも多い。

nooksxxi0306.jpgそもそもアメリカには高齢者などを除いて、日本のように公的な国民皆保険の制度がないため、医療保険を持っていない人が大勢います。会社勤めの場合は、会社が提供する民間の医療保険に入り、医療費は自己負担分を支払うことが多いのですが、そう簡単に全額払ってもらえるわけでもなく、毎回保険会社と交渉をしなければなりません。

しかも、自己負担の最低金額が数万円など、保険があっても医療費の負担は高額です。病気やケガによっては数百万円の治療費を請求され、破産する人もいるほどです。

さらに保険料も高く、自営業者の場合、家族4人で健康保険に加入すれば保険代が日本円にして毎月15万円を超えることもめずらしくありません。しかも解雇されたり無職だったりすると保険には入れません。総合的にみると、日本のほうがはるかに恵まれているのです。

谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

著述家、元国連職員
1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。ツイッター上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
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アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

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