最新記事

自動車

EVはもうすぐ時代遅れに? 「エンジンのまま完全カーボンフリー」を実現するあるシナリオ

2021年3月21日(日)16時35分
山崎 明(マーケティング/ブランディングコンサルタント) *PRESIDENT Onlineからの転載

理論上は正しくても現実性は...?

EV用途に限らず発電のグリーン化は進める必要があるが、大きな問題もある。グリーン発電の主力は水力、風力、太陽光となると考えられるが、どれも発電量は自然環境に依存する。風が弱ければ風力発電量は少なくなるし、悪天候が続けば太陽光発電はほとんど期待できない。需要と供給のミスマッチは不可避だ。

それを解決する1つの方法として、スマートグリッドというものが考えられている。

EVが普及すれば、そのEVに大量の電力が貯め込まれている。EVは稼働していないときは充電器につながれていると考えられるので、発電量に余裕があるときに充電し、電力が不足しているときはEVのバッテリーから逆に電力を調達するという考え方だ。

しかしこの方法は、ユーザーサイドの協力も欠かせない。電力が逼迫しているときは極力EVの利用を控える、駐車中は必ず車と充電器を接続する、などだ。理論上は正しくても、どれだけ現実性があるかは不透明だ。

グリーン電力でカーボンフリー燃料が実現できる

一方、将来電力のグリーン化が進み、世界中のほぼすべての発電がグリーンになったとすると、全く新しい可能性も見えてくる。グリーン電力さえあれば、カーボンフリーの燃料の合成ができるからだ。

一番わかりやすいのは水素で、水素は水を電気分解すれば生産できる。多くの自動車メーカーが水素で走る燃料電池車の開発に力を入れている(現在EV一辺倒に見える欧州も、水素の活用を中長期的には見据みすえている)のは、このような将来像を描いているからだ。

燃料電池車は水素から発電して電気モーターで走るので、冒頭で書いたようなEVの走り味と、内燃機関車と変わらない航続距離と燃料補給時間をあわせもつ、理想的な車となる。現在、燃料電池車が普及しないのは、流通している水素が主として化石燃料から作られているため、コスト的にも高く、CO2対策にもならないからだ。

「エンジン」のままカーボンフリーが実現する可能性

電気から作るカーボンフリー燃料の可能性はほかにもある。

アンモニアもその1つだ。水素からアンモニアが合成できる。アンモニアは水素よりも液化しやすいので輸送や貯蔵にも適している。アンモニアには炭素が含まれないため、燃やしてもCO2は一切排出されない。ガスタービンや、ディーゼルエンジンでの利用などに可能性がある(過去にジェット戦闘機やディーゼルエンジン搭載のバスに使われた実例もある)。

このように、電力で合成燃料を作ることができれば、エネルギーの貯蔵ができるので電力の需給ギャップ問題も解決できる。電力不足時にはその燃料でカーボンフリー火力発電を行えばいいのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中