最新記事

自動車

EVはもうすぐ時代遅れに? 「エンジンのまま完全カーボンフリー」を実現するあるシナリオ

2021年3月21日(日)16時35分
山崎 明(マーケティング/ブランディングコンサルタント) *PRESIDENT Onlineからの転載

「どこでバッテリーを作るか」という大問題

このことは重大な問題を示唆している。EVのCO2削減効果というものは、どこでバッテリーを作るかによって大きく変わってしまうということだ。

現在、EV用バッテリーシェアでトップは韓国のLG化学、2位は中国のCATL、3位が日本のパナソニック、4位が韓国のサムスンSDI、5位が中国のBYD、6位が韓国のSKイノベーション、7位が日本のエンビジョンAESC、8位は日本のPEVEである(2020年)。なんとこの8社で9割以上のシェアである。残りの1割も中国メーカーが多い。

つまりEV用バッテリーの生産は日中韓3カ国のメーカーに占められているのだ。もちろん生産は日中韓だけで行っているわけではないが、本国での生産が多いと考えられる。韓国も中国も火力発電比率は約70%、しかも両国ともCO2排出の多い石炭火力が主力だ。

テスラはアメリカと中国で生産しているが、使用しているバッテリーはパナソニック製で、日本のほかアメリカでも生産している。アメリカでも火力発電が6割以上(うち石炭は3割以上)を占めている。

アメリカで建設が進んでいるテスラとパナソニックの合弁によるギガファクトリーは、完成の暁あかつきには生産に必要な電力はすべてグリーン電力とするとしているが、EVの生産だけをグリーンにすればよいという話ではないだろう。ちなみにテスラの中国工場では、CATL製のバッテリーも使いはじめるようだ。

グリーン電力でなければ「環境にやさしくない」

さらに、EVは走行時にも大量の電力を消費するので、それもグリーン電力でなければCO2削減の意味は薄れる。つまり、EV化を進めるべきか否かということは、発電がどれほどグリーンになっているかということと極めてリンクしているのである。

テスラはモデルによってはMX-30の3倍近い100kWhのバッテリーを搭載しているので、現在の作り方では、廃車まで使い切ったとしても内燃機関車よりも多くのCO2を排出することとなると考えざるを得ない。火力発電比率の高い日本やアメリカ、中国でテスラに乗ることは、かえって地球温暖化を促進してしまうのである。

欧州メーカーのEVは、発電のグリーン化が進んでいるEU内でバッテリーが作られているならCO2削減効果は日米中のメーカーより高いと考えられる。

しかし現在のドイツのEVは妙に高性能指向のモデルが多く、80kWh~100kWhという大容量バッテリーを搭載している上にパワフルなモーターを使っているため走行時の電力消費も大きい。仮にバッテリーがすべてEU製だとしてもCO2削減効果は極めて限定的だろう。欧州製EVも、日本で乗るのは環境に優しくないと考えるべきだ。

「グリーン化を進めつつ発電量も増やす」という難題

現在、欧州を先頭に発電のグリーン化が進んでいるが、同時に火力発電の廃止も進めなくてはならない。グリーン化を進めつつ発電量も増やすのは容易なことではないだろう。

EVの急速な普及は、生産でも使用でも電力需要の急速な拡大も意味するので、火力発電を増やす必要が生じて発電のグリーン化の足を引っ張ることにもなりかねない。それでなくても電力需要は逼迫ひっぱくしているのである。俯瞰ふかん的に考えた場合、既存の電力需要のグリーン化がまず優先されるべきなのではないか。

現状の発電状況は、先行しているヨーロッパにおいてでさえグリーン化プロセスの途上であり、EVを普及させるよりハイブリッドをより効率化させて普及させるほうが社会全体のCO2削減に効果的なのではないだろうか。

しかも、そのほうがユーザーの経済的負担も軽く、利便性も今と変わらずに車に乗ることができるのだ。ディーゼルとハイブリッドを組み合わせれば、さらにCO2を削減することができるかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 8
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中