最新記事

米大統領選2020 アメリカの一番長い日

著名エコノミスト9人による次期大統領への助言──コロナで深刻な打撃を被った米経済への処方箋は?

RX FOR AN AILING ECONOMY

2020年11月18日(水)18時15分
ピーター・カーボナーラ、スコット・リーブス(本誌記者)

magSR201118_Economy2.jpg

KILITO CHAN-MOMENT/GETTY IMAGES

先のことを考えるよりコロナ対策に全力を挙げる

■オリビア・ミッチェル(ペンシルベニア大学ビジネススクール教授、公共政策学)

経済危機の処方箋より、いま必要なのは公衆衛生上の危機を終わらせる対策だ。そう考えるオリビア・ミッチェルは年金問題の専門家。年金制度の設計には長期的な視点が不可欠だが、次期大統領にはまず「今そこにある危機」に集中してほしい、そして「新型コロナウイルスの感染拡大を今すぐ止める」ことを最優先にしてほしいと、彼女は言う。

具体的には、ウイルス検査と感染経路の追跡を大規模かつ徹底的に行い、自主隔離やマスク着用の推奨を継続し、ワクチンの開発に取り組む科学者に余計な圧力をかけず、一方でワクチンを全ての国民に届けるシステムを確立することだ。 

そうすれば「経済活動再開への道が開ける」と、ミッチェルは言う。ただし「その先、来年あたりには追加的な景気刺激策が必要になるだろう」と予測している。

導入すべきは景気の自動安定装置

■ジャスティン・ウォルファーズ(ミシガン大学教授、公共政策・経済学)

次期大統領が真っ先にやるべきことは、いま経済的に苦しんでいる家庭に少しでも多くの現金を渡すこと。多くのエコノミストと同様、ジャスティン・ウォルファーズもそう考える。ただし別の助言もある。危機に際しては迅速な対応が求められるのに、政治が介入すると、どうしても決断が遅くなる。だから思い切って、必要な決定の一部から人間の介入を排除してはどうかというのだ。

選挙で勝つにはこれが必要だとか、感染したのが大統領自身だから隔離の日数を短縮するとか、この10月にもさまざまな混乱があり、そのたびに別の景気刺激策が現れては消えた。「政治の機能不全のいい例だ。財政出動の必要性は少しも変わっていないのに、政治の都合で政策が変わる」と、ウォルファーズは嘆く。これでは困るから、「経済があるレベルまで悪化したら一定の景気刺激策を発動すると、前もって決めておけばいい」。

つまり、経済の状態に応じて自動的に公的資金の供給を増やし、あるいは税負担を軽くしたりする景気の「自動安定装置」を導入することだ。これがあれば、「人災」による経済的困窮を減らすことができる。

21世紀にふさわしい経済版「権利章典」を

■ウィリアム・ダリティ(デューク大学教授、経済学、政治学)

ウィリアム・ダリティが次期大統領に望むのは、今の景気後退で最も打撃を受けており、かつ景気回復過程で置き去りにされがちな低・中所得層の救済だ。

階級制度や人種の違いが富の創出や所得分配に及ぼす影響を考える「階層の経済学」の先駆者であるダリティに言わせれば、いま必要なのは「経済版の権利章典」。なぜなら「新型コロナウイルスの危機が始まる以前にこれができていれば、経済的なダメージを大幅に減らすことができたはずだ」と考えるからだ。

経済版「権利章典」の実現には、さまざまな法律の制定が必要となる。例えば、民間部門で仕事が見つからない人には政府部門でしかるべき雇用を提供し、生活に必要な収入を保証すること。オバマ政権の医療保険改革を一歩進め、高齢者だけでなく国民の全てが安心して病院に行けるシステムの確立も欠かせない。 そして既存の民間銀行には相手にされず、高利の悪質な貸金業者に頼らざるを得ない低所得層に手を差し伸べるため、良心的な公営の融資制度を創設する必要もあると、ダリティは考えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア議会、「スパイ法案」採択 大統領拒否権も

ビジネス

米ホーム・デポ、売上高が予想以上に減少 高額商品が

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の発言要旨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 10

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中