最新記事

コロナと脱グローバル化 11の予測

パンデミックで停滞した物流に効く、唯一の起死回生策

THE SUPPLY CHAIN STUMBLE

2020年9月3日(木)11時25分
ダリア・マリン(ミュンヘン工科大学教授)

景気浮揚には新たなアプローチが必要だ AVIGATORPHOTOGRAPHER/ISTOCK

<「来年の世界経済はV字回復する」との予測もあるが、コロナ禍に起因する景気後退は従来のものとは大きく異なる。この特殊な状況下で高い費用対効果を期待できるのは──。本誌「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集より>

30年近くにわたり、世界に広がったサプライチェーン(原材料や部品の調達から製造、消費者の手に届くまでの流れのこと)は経済のグローバル化の静かな原動力となってきた。1990年から2008年にかけて、世界経済の成長要因となった貿易の急拡大を支えてもきた。だがその後は行き詰まりが見られ、一部の分野では後退局面に転じている。原因の1つは、多くの国々が保護主義的な政策に転じたことだ。
20200901issue_cover200.jpg
それに加え、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)による供給ショック、つまり財やサービスの供給が滞ったことが原因の景気後退が起きている。これに関連して、複数の国にまたがって製品の開発や部品の調達、製造を行うグローバル・バリュー・チェーン(GVC)の活動量も、少なくとも35%減少する可能性がある。

実際、世界貿易の成長率はもはや、世界のGDPの成長率を下回っている。この状況が続けば、先進国の企業がアジアなどから製造拠点を自国に戻す動きも出てくるだろう。

IMFやOECDの予測によれば、来年の世界経済はV字回復するという。だがこの見方も、リーマン・ショック後にGVCが急速な回復を遂げたことにかなり影響されている可能性がある。だがリーマン・ショックは全世界の実体経済ではなく、金融システムに端を発していた。需給関係の崩壊が果たした役割の大きさを考えれば、今回の景気後退が従来のものと大きく異なる様相を呈することは想像に難くない。

また、ロックダウン(都市封鎖)によって原材料や部品の供給が滞れば、工場の生産量は大きく減る。過去の自然災害が経済に与えた影響を調べている米マサチューセッツ工科大学のジャンノエル・バローらの研究でも、洪水や地震でサプライヤーが被害を受けると、原材料や部品を仕入れていた業者の生産量が激減し他社に波及することが分かっている。

金券より自動車購入支援を

そもそも、2011年以降のGVCの成長の鈍化は先進諸国における生産性向上の鈍化、ひいては景気減速につながっていた。そこにコロナ禍が加わったのだから、先行きの見通しは暗い。こうした状況下では、特定の業種に絞って成長を促す政策こそが唯一選択し得る景気刺激策となる。ドイツではフォルクスワーゲンなどの企業から自動車の購入支援策を政府に求める声が上がっている。同様の政策は2009年にも実施例があるが、アンゲラ・メルケル首相率いる政府は今回、導入を見送った。

その決断を見直してみてはどうだろう。パンデミック下で高い費用対効果を期待できるのは分野を絞った刺激策だ。パンデミック下のように全体の50%が完全に機能停止した経済と、通常の不況下のように全ての経済活動が50%鈍化した経済とでは話が異なる。

【関連記事】新自由主義が蝕んだ「社会」の蘇らせ方
【関連記事】コロナ不況でも続く日本人の「英語は不可欠」という幻想

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中