最新記事

世界経済入門2019

宇宙で始まった欧米の新バトル 経済版スターウォーズの勝者は?

A NEW STAR WARS SAGA: EPISODE ONE

2019年1月9日(水)11時25分
前川祐補(本誌記者)

欧州ベンチャーの追い上げ

投資市場も「シリコンバレー連合」の活動に関心を寄せるが、彼らもあぐらをかいてはいられない。欧州企業が猛追しているからだ。

「アメリカのIT企業の動きが注目されがちだが、技術的な面ではヨーロッパの宇宙ベンチャーも最先端を走っている」と、イギリスを拠点とする宇宙ベンチャー、オープン・コスモスのラフェル・シキエールCEOは言う。実際、EUを司令塔に欧州諸国は宇宙事業に注力している。

その本気度は予算の増額ぶりを見ても分かる。2021~27年まで、過去7年から50%増しとなる160億ユーロ(約2兆円)の宇宙関連予算を投じることを18年6月に承認。NASAを追い掛けるロシアに匹敵する額だ。

EUが宇宙ビジネスに本腰を入れる理由はアメリカよりも切実だ。好景気のアメリカと違い、ヨーロッパは景気回復を謳歌する前に、来春のブレグジット(英EU離脱)が迫る。宇宙ビジネスは経済の重要な起爆剤の1つとして期待を集めており、EUは宇宙産業で23万人以上の雇用創出ができると見込んでいる。

欧州でも注目されているのは衛星データビネスだ。シキエールのオープン・コスモスは2017年に小型衛星の打ち上げに成功。交通インフラ産業などへのデータ提供を行っている。宇宙からのネット接続を可能にする通信事業や宇宙空間を利用した科学実験事業なども手掛けている。同社はスタートアップ専門のネットメディア、EUスタートアップ誌が選定する「注目すべき10社の欧州宇宙スタートアップ」の1つに選ばれた。

2019年には「同業者と比べても多い」最大30回の打ち上げ契約を締結予定だが、それでも需要に追い付かないという。「極端に言えば顧客専用の衛星を打ち上げることもできる。電子レンジと同程度の大きさの小型衛星が打ち上げられるようになったので、こうしたオンデマンドな衛星ビジネスが可能になった」

防衛産業に注力する背景

経済だけではない。宇宙ビジネスはヨーロッパの安全保障にとっても重要な産業として注目されており、特に海洋の安全保障での期待が高まっている。

きっかけとなったのは、中国の南シナ海問題。域外貿易の9割を海上輸送に頼るEUでは、この問題を機に航行の自由と海洋防衛への意識が高まり、欧州理事会は2014年に「EU海洋安全保障戦略」を承認した。

この戦略で注目されているのはISR(諜報・監視・偵察)と呼ばれる市場だ。海洋での船や人の動きを精緻に分析するツールを搭載した衛星ビジネスのことで、いわば情報戦の要だ。

【関連記事】トランプ「給料を高く高く高く」政策の成績表 米経済の不安材料は?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米政権、電力施設整備の取り組み加速 AI向

ビジネス

日銀、保有ETFの売却開始を決定 金利据え置きには

ワールド

米国、インドへの関税緩和の可能性=印主席経済顧問

ワールド

自公立党首が会談、給付付き税額控除の協議体構築で合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中