最新記事

飲料

世界のビール消費16%減、価格約2倍との予測 意外な原因で

No More Beer?

2018年11月5日(月)12時05分
アリストス・ジョージャウ

ビールは異常気象の影響を受けやすい(ドイツのビールの祭典オクトーバーフェスト) SEAN GALLUP/GETTY IMAGES

<専門誌ネイチャー・プランツに掲載された研究。気候変動が庶民を直撃するニュースが飛び込んできた>

気候変動はこれまで、多くの懸念をもたらしてきた。異常気象の増加、種の大量絶滅、海面上昇......。これらが特に気にならない人でも、専門誌ネイチャー・プランツに掲載された研究には不安を覚えるかもしれない。

国際的な研究チームが今回発見したのは、庶民を直撃するニュース。気候変動が世界的にビールの供給を脅かし、ビール不足と価格上昇をもたらす可能性があるというものだ。

その原因は、ビールの主原料である大麦にある。予測どおりに将来、干ばつや熱波が頻発するようになれば、特に異常気象の影響を受けやすい大麦の収穫量は著しく減少するとみられる。それが、世界で最も人気のアルコール飲料であるビール消費の「劇的」な減少を招くという。

今回の研究では、全世界の大麦収穫量は気候状況によって3~17%減少すると予測。なかでもビール原料用の大麦が大きく減ることになるという。生活に不可欠な用途に使われる大麦が優先されるからだ。

最悪のシナリオでは、世界のビール消費は16%、量にして290億リットル落ち込み(アメリカ全体の年間消費量に匹敵)、価格は約2倍になると予想される。

影響は地域によって異なるだろう。近年ビール消費が著しい国々は、急激な消費減に見舞われる。例えば最大の消費国である中国は、最大で43億4000万リットルの消費減が考えられる。

ある国におけるビール価格は、消費者がより高い値段を払っても買えるか、買いたいと思うか、あるいは買わずに消費量を減らすか、といった状況に左右される。このため、価格の極端な上昇は、現在ビールが高額なオーストラリアや日本といった国よりも、ビールが浸透していてビール好きが多いアイルランドのような国で起こる。こうしたビール愛好国での価格は最悪の場合、2099年までに43~338%上がる可能性がある。

「気候変動が小麦やトウモロコシ、大豆、コメなど主要生産物に与える影響の研究は増え始めている」と、研究に参加した英イーストアングリア大学のダボ・グアン教授は述べる。「必需品を最優先に対策を行った場合、いわゆる『贅沢品』は必需品に比べて供給が不安定になり、極端に手に入りにくくなるかもしれない」

贅沢な嗜好品でもワインやコーヒーは気候変動の影響が話題になるが、ビールについては詳しい調査さえ存在しなかったと、グアンは言う。ワインやコーヒーのように健康効果が注目されていないからだろうか?

「ビール消費が減ること自体は惨事ではなく、かえって健康に効果的かもしれない」と、グアンは言う。だが気候変動での酷暑の中、冷えたビールまで手に入りにくく、値上がりするとなれば、世界中の多くの人にとっては踏んだり蹴ったりだろう。

<本誌2018年11月6日号掲載>


※11月6日号は「記者殺害事件 サウジ、血の代償」特集。世界を震撼させたジャーナリスト惨殺事件――。「改革」の仮面に隠されたムハンマド皇太子の冷酷すぎる素顔とは? 本誌独占ジャマル・カショギ殺害直前インタビューも掲載。

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物は横ばい、米国の相互関税発表控え

ワールド

中国国有の東風汽車と長安汽車が経営統合協議=NYT

ワールド

米政権、「行政ミス」で移民送還 保護資格持つエルサ

ビジネス

AI導入企業、当初の混乱乗り切れば長期的な成功可能
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中