最新記事

アマゾン

アマゾンが取引先に課している「冷酷な条件」の実態

2018年1月26日(金)17時30分
林部健二(鶴 代表取締役)※東洋経済オンラインより転載

有利な条件を引き出すための「カスケード」

その顕著な例が、「カスケード」と呼ばれる仕組みです。これは、他社に対して競争優位性を築こうとする取引企業の努力を利用して、アマゾンにとって有利な取引条件を引き出していく仕組みのことです。

日本の書籍流通の世界には、トーハン、日本出版販売(以下、日販)、大阪屋栗田(以下、大阪屋)といった卸業者(取次)が存在します。書籍のネット通販を行うアマゾンから見た仕入先は、この取次会社になるのですが、アマゾンは取次会社にさまざまな条件を提示して互いを競争させるのです。

そして、最も好条件の会社から順位付けをし、上位の会社から順番に購買リストを渡していきます。順位トップの会社がリストの50%を納品すると、リストは次の順位の会社に回ります。そして、そこが30%納品し、残りの20%が次の順位の会社に回るのです。この仕組みがカスケードです。

カスケードの順位を決める条件の1つが正味(仕入れ価格)です。当然アマゾンは正味の低い会社を優先しますから、大阪屋が正味80円、日販が85円、トーハンが90円という数字を提示してきたら、大阪屋が順位のトップになります。しかし、もし翌月に日販が79円という数字を出してきた場合、アマゾンは容赦なくトップを入れ替えます。

これが、多くの日本企業とは異なるアマゾンならではの合理主義的なやり方です。日本の一般的な書店では、通常「◯◯書店の△△店は大阪屋から仕入れる」と決まっているもので、「今月は日販のほうが安いから、日販に切り替えよう」とはしません。ちなみに、大手日系ネット書店などはシステム上、帳合の変更は可能なのですが、取引先に気を遣って実際には行っていません。

書店に限らず、「いつもお世話になっているから」と取引先に気を遣い、義理人情をもってビジネス判断を下すのが日本の商慣習です。しかし、そんな平和な日本のビジネスの世界に、アマゾンが本気の資本主義をもって乗り込んできたのです。

何十億という決裁権を持ったアマゾンの人間は、「この条件で承諾いただけないのであれば、契約は破棄させていただきます」と言って、平然と取引を打ち切っていきます。義理人情がまったく通用しない、アマゾンの徹底した合理的なやり方は、日本企業には衝撃的でしたが、アマゾンとの取引額が1000億円という巨額の規模になってくると、どんな不都合な条件も呑まざるをえないのです。

なぜそこまで「冷酷」になるのか

このように、アマゾンとかかわる取引企業からすれば、合理的すぎるアマゾンのビジネスのやり方が冷酷に見えるのも仕方ありません。しかし、アマゾンがこうした合理主義を徹底するのは、アマゾンが「顧客至上主義」を大切にしているからなのです。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中