最新記事

経済超入門

世界の85%が希望の時代、米欧日が不安の時代となった理由

2017年12月28日(木)17時30分
アフシン・モラビ

中国のアリババ・ドットコムはアマゾン・ドットコムを蹴散らし、滴滴出行(ディーディーチューシン)はウーバーの中国事業を買収した。イギリスの名門ジャガーはインドのタタ・モーターズの傘下にあり、ゴディバはトルコの食品会社に買収された。通信業界でもインドのバーティ・エアテルやアラブ首長国連邦のエティサラート、エジプトのオラスコム・テレコム、南アフリカのMTNグループが世界市場で欧米企業に挑んでいる。フィリピンのファストフード市場では、地元のジョリビーにマクドナルドやバーガーキングが苦戦を強いられている。それでも軍事力では欧米が圧倒しているが、孤立主義に傾く欧米諸国が軍事力に訴える可能性は低い。

そうなると残るは経済力の勝負だが、実はGDPも中流層も貿易もとっくにアジアへ流れている。アジアには世界のGDPの約3分の1が集中し、さらに増えている。30年までには世界の中流層の3分の2をアジア人が占めているだろう。今でも輸入額ではアジアがアメリカやEUを上回っている。米大統領のドナルド・トランプは中国との貿易不均衡を大騒ぎしているが、憂慮すべきは自国と「残り」の諸国における「希望の不均衡」だ。

「希望の不均衡」が逆転した

20世紀の後半、欧米は経済でも貿易でも、政治でも軍事でも大衆文化でも世界を牽引してきた。その結果、欧米人はさまざまな分野で優越感をいだいた。もちろん「希望」でも優越していた。あの頃は欧米の寛容な資本主義が希望をほぼ独占していた。所得が上昇し、技術が進歩し、国が正しい方向に向かっていると信じられたからだ。

そんな時代は終わった。今では希望の不均衡が逆転している。欧米諸国の人々は今、中国やインドや新興諸国の人々に比べると、概して将来に希望をいだいていない。希望は数値化できない。希望でものを買えるわけでもない。しかしアルバート・アインシュタインは言う。「数えられるものはどうでもいい、数えられないものこそ大事だ」と。ならば希望は大事だ。

今後、ヨーロッパは希望の欠如で混乱するだろう。16年のイギリスとアメリカがそうだったように、希望の欠如が暗い影を落とし、左右のポピュリストや民族主義者が大きく躍進することだろう。特定の集団を「敵」に仕立てるやり口が横行し、外国人の排斥と社会の分断が進み、穏健な中道派は居場所を失うだろう。

世界の85%が希望の時代を生きているときに、15%の欧米諸国は不安な時代を生きているようだ。この分断が世界を揺るがし、私たちの社会や政治、そして生きざまをも変えていく。いま必要なのは「15」派が希望を取り戻すことだ。減税や金利の操作よりも、「85 」派と「15」派が等しく希望をもてる世界をつくり出すことだ。トランプをはじめ、欧米のポピュリストたちは人々の怒りを増幅させるすべにたけている。彼らに、希望を増幅させるすべもあることを祈ろう。

【参考記事】TPPは「ルールブック」、崖っぷちでも自由貿易が死なない理由

※この記事は新刊『経済超入門 ゼロからわかる経済学&世界経済の未来(ニューズウィーク日本版ペーパーバックス)』(ニューズウィーク日本版編集部・編、CCCメディアハウス)からの抜粋記事です。


ニューズウィーク日本版のおすすめ記事をLINEでチェック!

linecampaign.png

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中